すべてはあの花のために④


「お~い葵? 何か問題があった?」


 葵は目を見開いたまま首を緩く振る。なんだか怖かった。妖怪みたいだ。


「どういう意味」

「え。そのまま。俺の心情だけど?」


 さっきまで固まっていたのが嘘のように、葵はまた作業に取り掛かる。


「ありがとう! すっごく助かっちゃった! 人からもらったものだから、綺麗に取っておきたかったんだよー」


 そう言う彼女は少し寂しそうだったけれど、したことが間違いでないならいいかと思うことに。


「じゃあ一つお願いする!」


 いきなり何を言い出したのかと思ったけれど、嬉しそうな表情に「何なりとどうぞ?」とつい言いたくなった。


「あの白い薔薇も、プリザーブドフラワーにして欲しい!」


 葵の表情は、出来たそれを早く見たいという期待でいっぱいだった。


「……でも、ちょっと傷んでるよ? それに、普通そういうのって咲ききってない花使うんじゃない? あの花結構咲いちゃってるし、違う花買ってした方が綺麗に出来ると思」

「ダメ! あの花じゃないとダメなの!」


 服を掴んで必死に訴えかけてくる彼女の瞳は、僅かに悲しみで揺れていた。


「(……一体何だっていうの。まさか、どっかのキザな野郎からもらったんじゃないだろうな)」


 はあと、わざとらしくため息を落とす。


「そんなに綺麗に出来ないかもしれないよ? それでもいい?」

「うんっ! それ、最優先だから! それが終わらないと他のことやっちゃダメー」

「はいはい。そんなに期待してくれてるなら、仕事なんかそっちのけでやらせてもらいますよ~」

「うん! ありがとー!」


 シントは僅かに顔を顰めた。いつもならここで、「仕事しろ」と返ってくるからだ。


「でも葵、これって何日もかかるよ? それでも優先するの?」

「うん! これの出来上がりが早く見たいから!」


「きっとシントのことだから、すっごく上手にするんだろうね~」なんて言われたら、気合いはマックス。


「葵がビックリするぐらいの、そのままの見た目で作ってあげましょうとも」

「うん! やった! シント大好きっ」


 そう言って腰元に抱き付くもんだから、流石にすぐ離してもらった。