すべてはあの花のために④


「シント、先にやることやってもいい?」


 そして、目と鼻の先まで近づいたところで、にっこりと微笑まれた。


「……後じゃダメ?」

「何のために学校休んでると思うの」


「そうだよね~」と、冗談ぽく残念そうに離れて、葵の荷物を片付け始める。


「俺ができることはしておくから、葵は溜まったこと、頑張って早く済ませてね」

「うん。でも結構時間かかっちゃうかも」

「わかってる。今日は俺も一日時間貰うし。ちゃんと荷物を片付けて、お風呂溜めて、ベッドで待ってる」

「うん。そうしてて」


 そして、着ていた制服をポイポイ脱いだ葵は、部屋着に着替え始めた。


「え。……本気で言ってるの?」

「え。だからシントは今日わたしといてくれるんじゃないの?」


 目の前で堂々と下着姿になって部屋着へ着替える葵に、シントは頭を抱えた。
『これ、絶対に男として見られてないじゃん』と。そう考えているように見せるために。


「(……急にそんなこと言い出すお前のことが、心底心配だからに決まってるじゃん)」


 本当の胸の内が、彼女にバレてしまわないように。


 葵が“しなければいけない用事”をし始めたのを見届けて、シントは取り敢えず風呂の準備をしに部屋を出る。



「……お忙しいところ申し訳ありません。お嬢様の体調が優れないので、今日は学校を休ませようと思いご連絡を。……はい。その通りでございます。なので、お嬢様から目を離さないよう、今日一日付き添っていたいのですが……。――畏まりました。それでは。失礼致します」


 道明寺との連絡用のみで使用している携帯をパタン、と閉じる。気づかれない程度に、握っている携帯を握り締めた。