「シント、先にやることやってもいい?」
そして、目と鼻の先まで近づいたところで、にっこりと微笑まれた。
「……後じゃダメ?」
「何のために学校休んでると思うの」
「そうだよね~」と、冗談ぽく残念そうに離れて、葵の荷物を片付け始める。
「俺ができることはしておくから、葵は溜まったこと、頑張って早く済ませてね」
「うん。でも結構時間かかっちゃうかも」
「わかってる。今日は俺も一日時間貰うし。ちゃんと荷物を片付けて、お風呂溜めて、ベッドで待ってる」
「うん。そうしてて」
そして、着ていた制服をポイポイ脱いだ葵は、部屋着に着替え始めた。
「え。……本気で言ってるの?」
「え。だからシントは今日わたしといてくれるんじゃないの?」
目の前で堂々と下着姿になって部屋着へ着替える葵に、シントは頭を抱えた。
『これ、絶対に男として見られてないじゃん』と。そう考えているように見せるために。
「(……急にそんなこと言い出すお前のことが、心底心配だからに決まってるじゃん)」
本当の胸の内が、彼女にバレてしまわないように。
葵が“しなければいけない用事”をし始めたのを見届けて、シントは取り敢えず風呂の準備をしに部屋を出る。
「……お忙しいところ申し訳ありません。お嬢様の体調が優れないので、今日は学校を休ませようと思いご連絡を。……はい。その通りでございます。なので、お嬢様から目を離さないよう、今日一日付き添っていたいのですが……。――畏まりました。それでは。失礼致します」
道明寺との連絡用のみで使用している携帯をパタン、と閉じる。気づかれない程度に、握っている携帯を握り締めた。



