すべてはあの花のために④


 流石に恥ずかしくて耳を少し赤くする葵。返事が返ってこずタオルの隙間から様子を窺うと、シントは口をあんぐり開けたまま固まっていた。


「あ、あれ? ……しんと? どうし――」


 ――ガンッッ‼︎

 そしてシントは、思い切り自分の頭を車へ打ち付けた。


「……これは夢だ。夢に決まってる。何これ。本当に勘弁してくれない? 危うく作者の考えに乗っかって手出しそうになってるじゃん俺。どうせ『おい、葵に手出しやがったな? 解雇じゃ解雇』とか言ってこの作品から俺のこと追い出そうとしてんでしょ? ねえそうなんでしょ? ……まあ葵とそういうことができるのは本望ですけどねありがとうございます‼︎」


 とか言いながら、ずっとガンガン頭を車に打ち付けている。それはもう、車体がぐらぐら揺れるほど。


「シントすごいっ! 車が揺れてるうー!」


 そんなシントを放っている葵は、一種のアトラクション状態を楽しんでいましたけれど。


「……あ、葵? 今のって、本当……?」

「ん? もう。そう言ってるのにい。あ。もちろんシントが嫌なら、わたしは別にしなかったらしなかったで全然――」

「俺は免許と引き替えにしてでも葵を今日戴くっ‼︎」


 最後まで言い切る前に、後部座席から飛ぶように運転席へと回ったシントは、超特急で車を発進させた。

 ルンルンで運転するシントに、クスッと吹き出して笑った葵の瞳の奥が、赤く冷たくなっているとも知らずに。