すべてはあの花のために④


 しばらくすると落ち着いた葵は、ゆっくりとシントから起き上がった。


「……葵、だよね」

「(ずずっ)え? うんっ。ぞゔだよ゙?」


 すると、何故かシントは若干距離を取ろうとする。


「え。どゔじだの゙っ?」

「ちょっと待って」


 シントが取り出したのは鏡。そして構えながら「いいか葵。頑張って自分を保つんだ」――そう前置いて、ばっとこちらへと向けた。


「?!?! 怖い怖い怖いぃー……ッ‼︎」


 自分の顔を見て、再び震え出す事態に。


「ねえ葵。俺が好きな葵は、そんな顔じゃなかったはずなんだけど」

「わ゙だじも゙びっ゙くり゙だっ……」

「まず目はどこに行ったの。溶けてなくなった?」

「こ、ここに一応あったはずなんだっ……」


 葵は、腫れすぎて垂れた目蓋を持ち上げる。


「あ。ほんとだ。よかった、あったね」

「うん。よ゙がっ゙だ」

「しかも葵、鼻の下擦ったでしょ。それもいっぱい。腫れすぎて唇三枚あるみたいで、口裂け女とかよりも怖いんだけど」

「ほんどだっ。しがも、声がじゃがれ゙でる゙よ゙お゙~……」


 あまりの酷さに両手で顔を覆って俯いていると、どこから取り出したのかシントは濡れタオルを渡してくれる。


「え。どごがらどりだじだの?」

「そんなの四次元ポケットに決まってるじゃん」

「ほんどにっ?! わたじも゙ほじい゙‼︎」

「こうなるって予想ついてただけだから。早くそれで顔冷やしてお願い。そんな顔に俺はちゅーしたくないよ」

「いや。させないけどね」

「なんでそこは普通に喋れるの……」


 項垂れたシントに、思わず笑みが溢れた。
 葵の笑顔に、ほっと安心したようにシントは息を吐く。


「……大丈夫?」

「うん大丈夫。……ありがとねシント。本当に。ありがとう」

「はいはい。わかったから。それは帰ってベッドの中で言って」

「わかった」

「どうせ俺の給料減らそうとか言うんでしょ? あーいやだいやだ」

「お風呂も一緒に入る?」

「それでどうせ解雇にもってくるんでしょう? そんな流れも大体わかってるんだから。いつまでも騙されると思ったら大間違い」

「……じゃあ、帰って一緒にお風呂入ろうよ。それから、今日は一緒に寝よう? 口じゃなかったら、えっと。ちゅーもいいよ……?」