「……し。んと。……っ、ひっく……」
「はあ。寝ないんじゃなかったの?」
少し離れたところへ車を止めていたシントは、彼女の顔が見えないように抱え直す。幸い人通りは少ない。念のため、監視カメラの死角を通った。慎重に慎重を重ねておくに越したことはない。
「ねたくっ。なか。たっ」
「誰かに無理矢理寝かされたんだねえ」
「うぅ~……」
「それで? 誰に見られたの?」
「……っ、ひっく。あ、あ゙ぎら゙ぐん゙~……」
「うっわ。それはまた最悪な」
「ううぅ~……っ」
「はいはい。しんどかったね。でも、葵はちゃんとわかってたでしょ? もしかしたらって」
葵はただ、ずっとシントにしがみついて泣いていた。
「(……相当参ってるな。これは)」
取り敢えずシントは、葵を抱えたまま後部座席に座る。葵が泣き止むまで頭を、背中を、ずっと撫でてあげていた。
「(これじゃあ、帰るに帰れないんだけど)」
ガッチリしがみつかれてるので、身動きが取れない。
いつも、これぐらい積極的だったらいいのにと。ほんの少しだけ思うけれど。
「(ま、そんな気は起こせそうにないけどね)」
ぼろぼろと涙が落ちているのが、見なくてもよくわかる。
「泣け泣け。思う存分。これ以上、泣かなくて済むように」
ゆっくりと言葉を零した。葵に、言い聞かせるように。
「大丈夫。お前は強いよ。大丈夫。お前は弱くないから。今までやってこられたんだ。大丈夫。俺だっている。何があっても、俺はお前の味方だよ」
すると葵は、本格的に声を上げながら泣き出した。シントも掻き抱くように強く、葵を引き寄せる。
「(絶対にお前を、あんな運命なんかに連れて行かせるもんか)」



