すべてはあの花のために④


「……し。んと。……っ、ひっく……」

「はあ。寝ないんじゃなかったの?」


 少し離れたところへ車を止めていたシントは、彼女の顔が見えないように抱え直す。幸い人通りは少ない。念のため、監視カメラの死角を通った。慎重に慎重を重ねておくに越したことはない。


「ねたくっ。なか。たっ」

「誰かに無理矢理寝かされたんだねえ」

「うぅ~……」

「それで? 誰に見られたの?」

「……っ、ひっく。あ、あ゙ぎら゙ぐん゙~……」

「うっわ。それはまた最悪な」

「ううぅ~……っ」

「はいはい。しんどかったね。でも、葵はちゃんとわかってたでしょ? もしかしたら(、、、、、、)って」


 葵はただ、ずっとシントにしがみついて泣いていた。


「(……相当参ってるな。これは)」


 取り敢えずシントは、葵を抱えたまま後部座席に座る。葵が泣き止むまで頭を、背中を、ずっと撫でてあげていた。


「(これじゃあ、帰るに帰れないんだけど)」


 ガッチリしがみつかれてるので、身動きが取れない。
 いつも、これぐらい積極的だったらいいのにと。ほんの少しだけ思うけれど。


「(ま、そんな気は起こせそうにないけどね)」


 ぼろぼろと涙が落ちているのが、見なくてもよくわかる。


「泣け泣け。思う存分。これ以上、泣かなくて済むように」


 ゆっくりと言葉を零した。葵に、言い聞かせるように。


「大丈夫。お前は強いよ。大丈夫。お前は弱くないから。今までやってこられたんだ。大丈夫。俺だっている。何があっても、俺はお前の味方だよ」


 すると葵は、本格的に声を上げながら泣き出した。シントも掻き抱くように強く、葵を引き寄せる。


「(絶対にお前を、あんな運命なんかに連れて行かせるもんか)」