すべてはあの花のために④


「わたしね、親に愛された記憶が、殆どないに等しいの。……だから、人を愛する気持ちが、一体どういうものなのか。わからないんだよ」


 カナデは絶句していた。
 彼の場合、母親こそいなかったけれど、父親に、そして家族たちにはしっかり愛されていたから。



「……だ、から。家は、いやなの……?」


 カナデが何とか紡いだその言葉に、葵は返事の代わりに苦笑を浮かべた。


「でもね? 大好きな人はいたの」

「ええ?! 意味わかんないんだけど!」


 慌てているカナデの様子が、ちょっとおかしかった。


「その人はね、とっても格好よかったの。強くて、やさしくて、面白くもあって」

「…………」

「すっごくあったかくて。だから、お父さんってこんな感じなのかなって」

「……お父さん?」


 戸惑ってるカナデの様子がおかしかった。


「その人がね、大好きだったんだあ」

「(……本当に、大好きだったんだなあ)」

「でもね、奥さんがいたの」

「(……アオイちゃん。最初からハードルが高いって)」


 葵が不憫な思いをしたんだと思い、カナデは目頭を押さえながら葵の頭を撫でていた。