すべてはあの花のために④


 そんなことを思っていたから「考えた?」と聞かれて、すぐに反応ができなかった。


「俺、随分前からお預け状態なんですけど」


 甘えるように、彼の頭が擦り寄ってくる。


「……そうだね。昨日も一昨日もバタバタして」

「だから今しかないと思って」


 でもカナデは、ぎゅっと葵を抱き締める力を強くすると、頭が肩からいなくなった。


「……聞きたくないの?」

「聞きたいけど怖いよ。……でも、二人になれる機会なんか、今度いつ来るかわからないし」


 葵の後頭部に額をつけて、彼は大きく息を吐いていた。


「葛藤中なんだ?」

「ん」

「何が怖いの?」

「……振られるのが」

「もうそうだって決めつけるの?」

「何となく、わかるからさ」


「そっか」と、今度は葵が、ゆっくり息を吸って……吐いた。



「……わたしね? 好きってわからないんだ」


 葵は、うっすら明るくなってきた世界を眺めながら。



「……えっ?」


 後ろから、葵の顔を覗いてくる。
 戸惑った表情に、クスッと笑った。



「カナデくんに好きだって言ってもらえて……こんなわたしのそばにいたいんだって言ってくれて、本当に嬉しかったんだ。でもね、わかんないんだ。人を好きになんてなったことないから、カナデくんが今どんな気持ちなのか」

「アオイちゃん……」


 繋がっている手を、彼がぎゅっと握ってくれる。


「……もう、過去の話だからね。わたしも強くならなきゃ……」

「……アオイちゃん?」


 それに応えるように、葵も彼の手を握り返した。