そんなことを思っていたから「考えた?」と聞かれて、すぐに反応ができなかった。
「俺、随分前からお預け状態なんですけど」
甘えるように、彼の頭が擦り寄ってくる。
「……そうだね。昨日も一昨日もバタバタして」
「だから今しかないと思って」
でもカナデは、ぎゅっと葵を抱き締める力を強くすると、頭が肩からいなくなった。
「……聞きたくないの?」
「聞きたいけど怖いよ。……でも、二人になれる機会なんか、今度いつ来るかわからないし」
葵の後頭部に額をつけて、彼は大きく息を吐いていた。
「葛藤中なんだ?」
「ん」
「何が怖いの?」
「……振られるのが」
「もうそうだって決めつけるの?」
「何となく、わかるからさ」
「そっか」と、今度は葵が、ゆっくり息を吸って……吐いた。
「……わたしね? 好きってわからないんだ」
葵は、うっすら明るくなってきた世界を眺めながら。
「……えっ?」
後ろから、葵の顔を覗いてくる。
戸惑った表情に、クスッと笑った。
「カナデくんに好きだって言ってもらえて……こんなわたしのそばにいたいんだって言ってくれて、本当に嬉しかったんだ。でもね、わかんないんだ。人を好きになんてなったことないから、カナデくんが今どんな気持ちなのか」
「アオイちゃん……」
繋がっている手を、彼がぎゅっと握ってくれる。
「……もう、過去の話だからね。わたしも強くならなきゃ……」
「……アオイちゃん?」
それに応えるように、葵も彼の手を握り返した。



