葵は再びベランダへ。
今の時刻は朝の4時。まだ朝日が昇らないのを見て、ああ冬が来るんだなと感じていた。
「(流石にパジャマだけじゃ寒いか)」
体を摩っていると、後ろからふわりと何かに包まれる。
「どうしたのー? 眠れない?」
「……カナデくん」
毛布ごと葵を包み込んでくれた彼は、とても温かかった。
「風邪引いちゃうよ」
「うん。そうだね」
でも葵は、まだ朝日が昇らない世界を、じっと見るだけ。
「……寝ないの?」
「うん。目が冴えちゃったから」
「……そっか」
「あと。……朝日、見たいなって思ってさ」
カナデはぎゅうっと葵を抱き締めたあと、こてんと肩へ頭を乗せた。
「……俺も、ここにいていい?」
「眠くない?」
「……アオイちゃんの、そばにいたいから」
「……ありがとう」
返事の代わりに、彼は葵の指に触れた。その触り方がくすぐったくて、少し身を捩る。
そんな葵の様子にクスッと笑ったあと、カナデは指を絡ませるように手を繋いだ。
「カナデくん……?」
そのままカナデは、顔を近寄せてくる。
「……寝ぼけてる?」
「ううん。俺は本気だよ」
彼は、決して冗談は言っていなかった。
そのまま動かないでいると、彼の顔は葵の目の前まで来て止まる。
「なんで止めないの」
「だって、カナデくんはしないでしょ?」
「どうしてしないと思うの。こんなに近いのに」
彼との距離は殆どゼロ。
鼻先が触れ合ってしまうほどの距離。
「だって。カナデくんのこと信じてるから」
はっきり告げると、彼は大きなため息をつく。
「俺、一生アオイちゃんにキスできなさそう」
「させんわい」
返答が面白かったのか、おかしそうに笑いながら彼はまだ繋がれたままの手を持ち上げて、「じゃあこれで我慢する」と、絡まった葵の指にちゅっと音を立ててキスを落とした。何度も、何度も。
「かなで、くん」
「ん?」
カナデは、キスをする度にぴくんと震える葵の反応を楽しんでいるようだった。指に、指の根元に、手首に、何度も彼の唇が触れて、恥ずかしさに体温が上がる。
「あ。……真っ赤だ。かわい」
そして彼は、真っ赤になった葵の頬にも、キスを落とした。
「か、かなでくん。すとっぷ」
「えー」
非難の声を上げるけれど、やさしい彼はそれ以上してこなかった。
ただ葵のことを後ろから包み込むように抱き締めて、肩にこてんと頭を置いていた。
「やっぱり眠たいんでしょ」
「だって朝早かったし。ずっと一発芸してたし」
一発芸か。それは見たかったな。



