「これ。お母様のものだったんだね」
「(こくり)」
「タンザナイトの石言葉には『高貴』あと『冷静』とかがあったかな」
「?」
首を傾げるオウリにクスッと笑いながら、ブレスレットを付けている腕にそっと触れる。
葵は、歌を聴かせるように話しながら、彼の腕を一定のリズムでとんとんと叩いた。
「きっとお母様は、この石に助けてもらったと思っていたんだね。この石の効果に、『正しい判断能力の向上』や『落ち着いて物事を成功に』、『精神的な豊かさ』があったから」
「?」
「自分が助けてもらったから、どうかオウリくんのことも助けてくれますようにって、お願いしたんだろうね」
「…………」
「お母様がこれを渡したのは、オウリくんに『ごめんなさい』って言いたかったからだよ」
「……」
「お母様、先に謝ってくれてるよ。きっとオウリくんも、会った時は必ず声が出せるようになってるからね? ……大丈夫だよ」
ここに来た時からすでに眠そうだったオウリは、気付けば葵にもたれかかって眠っていた。
「(お疲れ様。あともう少し、一緒に頑張ろうね)」
ゆっくりと彼を抱え上げて、葵は部屋へと戻る。中に入ったら、みんなぐっすり眠っていた。
完全に眠っているオウリをそっと布団に寝転ばせ、そのあとは一定のリズムで掛け布団の上から彼の胸をとんとんと叩いてあげた。
「……お母さんって、こんな感じなのかな」
もれるのは苦笑だけ。
「……あなたは、知っていますか。ここに咲いている、花の名前を。たくさんの花に囲まれた、その花を。好きになったら、そばにいて。恋しくなったら、触れてみて。寂しくなったら、キスをして。愛しくなったら、名を呼んで……」
それが情けなくて、葵は唯一知っている子守歌を口ずさんだ。
オウリの胸へ、とんとんと触れながら。
「……花はひたすら蜜を分け、闇夜の月に手を伸ばす……」
彼の頭をやさしく撫でて、部屋を出るまで。



