すべてはあの花のために④


「……さて、と……」


 暗闇を背に、部屋の中で眠るみんなに頬を緩めながら、電話をかける。


『……遅い』

「ごめんごめん」


 相手はもちろんシント。
 ちゃんと電話にしたから許してと、一言謝罪を入れておく。


『今何時だと思ってんの』

「え? ……3時?」

『夜中のね。連絡遅すぎでしょ』

「ごめんごめん」


 声に覇気がなかったのに気づいたのか、電話の向こうにいるシントの様子が変わる。


『……何かあった?』

「ううん。みんなはすごいなあと思っただけ」


 大きなため息が、思わず落ちた。


『俺は、葵もすごいと思うよ』

「……そっか。ありがと」


 原因は、他でもない。


「シント。三日、だよ?」

『…………』

「三日、……何にもすることできてない」

『だから寝られないの』


 心配そうな声に、乾いた笑いしか出てこない。
 本当は、不安で不安で仕方がないというのに。


「……ほんと。どうしよう……」

『ちょっとでもすればいいのに』

「それは多分、逆に駄目だと思う」

『そうなの?』

「わかんないけど、それが“赤”との契約だから」

『そう……』


 それを最後に、しばらくの間耳が痛いほどの沈黙が流れる。それに耐えられなくなったのは、シントの方が早かった。


『ねえ、ほんと何があったの』

「……さっき、友達のお手紙を読んだの」

『……そうなんだ』


 でも、葵ももう、耐えられなかった。