大の大男がまあー……と思っていると、「……俺は」と彼はようやくこぼしてくれる。
「ずっと、カリンが好きだった」
聞かないことにするから返事はもちろんなし。
葵は笑顔で、そっと軽く耳を塞いだ。
「……兄貴の見合い相手の写真を見て、彼女には幸せになって欲しいと、心底思った」
見合いの様子をちらっと見たことがある。すげえ楽しそうにしてたよ。
ちょっとナヨってる兄貴も、カリンがしっかりしてるから、ああお似合いだなって。
結婚の話が進んだ時は、心底嬉しかったよ。兄貴なら、きっと幸せにしてやれるだろうって。
「でもあんなことがあって。俺が、もっといろんなことに早く気づいてやれてたら、こんなことにはならなかったかもしれないって。……何度後悔したかしらねえ」
彼は顔を上げて遠くを見つめる。
「でも……オウが頑張ってんのに。俺が何してんだって話だよな」
きちんとオウにも伝えておこうと思う。
今後どうしたいのか。俺も強くなるさ。
「カリンのこともオウのことも。これから俺がしっかり支えていく。だから、……ありがとうな。お嬢ちゃん」
そう言い切った彼に、葵はやさしく微笑んだ。
「っ、かあああ~~。……何言ってんだ俺」
急に恥ずかしくなったのか、頭を抱えるヒエンの体が小さく見えて、思わずクスリ。
「何がですか? わたしは何も聞いてませんよ。……あなたはまだ伝えてないんですから、せめて伝えてからそうなりなさいよ」
彼は「手厳しいな~」と笑った。
「……自分にとって大切な人が幸せそうだったら、見守ってあげたいって。思いますもんね」
その言葉にヒエンは首を傾げていたが、葵はただ苦笑いをしただけ。
その顔が引っかかったみたいだが、特に何も聞かないまま、彼は立ち上がる時にぽんと葵の頭を撫でていった。
「お嬢ちゃんは入らねえのか?」
そこから動かないでいると、部屋の中へと戻ろうとしたヒエンに声を掛けられる。「湿布貼って欲しいんですか?」と聞いたら「いらんわ」と即答。
「まだ、もう少しだけいます」
「……遅いから、早く寝ろよ」
葵はそれに、両手で大きく丸を作って返した。



