すべてはあの花のために④


 大の大男がまあー……と思っていると、「……俺は」と彼はようやくこぼしてくれる。


「ずっと、カリンが好きだった」


 聞かないことにするから返事はもちろんなし。
 葵は笑顔で、そっと軽く耳を塞いだ。



「……兄貴の見合い相手の写真を見て、彼女には幸せになって欲しいと、心底思った」


 見合いの様子をちらっと見たことがある。すげえ楽しそうにしてたよ。
 ちょっとナヨってる兄貴も、カリンがしっかりしてるから、ああお似合いだなって。

 結婚の話が進んだ時は、心底嬉しかったよ。兄貴なら、きっと幸せにしてやれるだろうって。


「でもあんなことがあって。俺が、もっといろんなことに早く気づいてやれてたら、こんなことにはならなかったかもしれないって。……何度後悔したかしらねえ」


 彼は顔を上げて遠くを見つめる。


「でも……オウが頑張ってんのに。俺が何してんだって話だよな」


 きちんとオウにも伝えておこうと思う。
 今後どうしたいのか。俺も強くなるさ。


「カリンのこともオウのことも。これから俺がしっかり支えていく。だから、……ありがとうな。お嬢ちゃん」


 そう言い切った彼に、葵はやさしく微笑んだ。



「っ、かあああ~~。……何言ってんだ俺」


 急に恥ずかしくなったのか、頭を抱えるヒエンの体が小さく見えて、思わずクスリ。


「何がですか? わたしは何も聞いてませんよ。……あなたはまだ伝えてないんですから、せめて伝えてからそうなりなさいよ」


 彼は「手厳しいな~」と笑った。



「……自分にとって大切な人が幸せそうだったら、見守ってあげたいって。思いますもんね」


 その言葉にヒエンは首を傾げていたが、葵はただ苦笑いをしただけ。
 その顔が引っかかったみたいだが、特に何も聞かないまま、彼は立ち上がる時にぽんと葵の頭を撫でていった。


「お嬢ちゃんは入らねえのか?」


 そこから動かないでいると、部屋の中へと戻ろうとしたヒエンに声を掛けられる。「湿布貼って欲しいんですか?」と聞いたら「いらんわ」と即答。



「まだ、もう少しだけいます」

「……遅いから、早く寝ろよ」


 葵はそれに、両手で大きく丸を作って返した。