すべてはあの花のために④


「おーい大丈夫か? さっきすごい音が……あ」


 ベッドから落ちた時の音が聞こえたのであろう、扉を開けたのはヒエンだったのだが。



「……ご、ごゆっくり~」


 すぐにバタンと扉が閉まって、なんだか拍子抜け。
 いつもいろいろと邪魔されるのにと思っていると、彼も同じようなことを思っていたのだろう。二人でひとしきり笑い合った。



「オウリくん。あのね? こんなのしか、持ってないんだけど……」


 オウリの手を取った葵は、自分の心へ、その手をそっと当てる。


「わたしのでよかったら――」

「おーい、何があっ――」


 その時、タイミング悪く、ガチャリと再び扉が開く。


「もらってくれますか?」

「はああ!?」

「あらま~!」


 部屋の中の状況に、みんなは大慌て。


「お、おいっ! どういうことだよ!」

「葵いい~……」

「アオイちゃーん。せめて返事をおお~……」

「あおいチャンはおれのだからっ!」

「アンタ! これは一体どういうことなの?!」

「……ん。よく撮れてる。オウリがあいつを訴えた時、少しでも証拠残しとかないと」

「いや日向よ、あんたはそれでいいんかい」


 ただ勇気と強さをあげる話をしているだけなのに、何をそんなに騒いでいるのかと首を傾げていると、目の前の彼がクスッと笑って文字を打つ。


〈あーちゃんの心も体も
 くれるのかと思っちゃった♡〉

「ええっ!?」


 そうしてオウリは、葵を引き寄せてキスを落とした。
 みんなは、きっと口にしたと思っていると思う。すごく近かったけど。

 葵の口の端にちゅっと音を立てて離れていった彼は、とても満足そうに笑っていた。



 ……それからは、本当に大変だった。
 オウリは勢いよく葵から離れ、チカゼとアキラとカナデに追いかけられ、放心状態の葵はアカネとツバサに肩を掴まれて大きく揺らされ、食べた手巻きを戻しそうに。

 そんな賑やかな様子を、扉からキサとヒエン、それからその様子を逐一逃すまいと動画に収めるヒナタは、楽しそうに笑っていた。