すべてはあの花のために④


 4月〇日


 やっぱりその子は辞退したいと言ってきました。

 でもおれがみんなに、〈この子と友達になりたいから 絶対生徒会に入ってもらおうね!〉と言ったら、みんなもみーくんと同じように、嬉しそうに笑ってくれました。

 でもまさか、あんなにその子をいじってしまうとは、おれも思ってなかったです。


 その子はきれいで、美人で、とっても強かっただけじゃありませんでした。

 おれらに足りないものを、ずばっと言ってくれて、気づかせてくれました。


 その子には、お友達がいなかったみたいでした。

 おれにもみんな以外いないから、もっと仲良くなってあげようって。お友達ってすごいんだよって教えてあげようと思いました。

 その子はみんなに、もう友達にだよと言われた時、目に涙を溜めながら、とっても素敵な笑顔で笑ってました。


 おれは、そんな彼女のことを、守ってあげたくなってしまいました。

 ずっとそばにいてあげたいなって。そんな笑顔がずっと見られたらいいなって、そう思いました。



 それからその子はとってもよく気づく子なんだと思いました。

 はじめはちーちゃん。

 お披露目式が終わってからぐらいから、ちーちゃんとその子は仲良くなっていました。

 少し、うらやましかった。


 でも、なんでかすぐにわかりました。

 きーちゃんの結婚式が原因です。

 とーくんもどうやら納得していなかったみたいだったので、彼女はちーちゃんときっくんと一緒にきーちゃんを無事、迎えに行ってくれました。



 そのあとはあっくん。

 あっくんも、ずいぶん前から様子がおかしかったけど、おれらは何もできませんでした。

 それでも彼女はあっくんのことも止めてくれました。

 おれは彼女に少ししか手を貸すことができなかったけど、それでも彼女が嬉しそうにありがとうって言ってくれて、すごく嬉しかった。



 次はあかね。あかねもなんだかんだで家のことで悩んでた。

 でも彼女は、あかねのこともすくってあげてくれました。

 本当に格好いいなと思った。

 おれは、彼女みたいに強くなれるだろうかと、そう思っていました。



 文化祭初日。

 彼女が、おれの気持ちを聞いてきました。

 今まで誰も聞いてこなかったのに、彼女はどんどんおれの中に入ってきたんです。

 普段なら怖いそれが、彼女にはもっと入ってきて欲しいなと、なぜかそう思いました。

 彼女でいっぱいになりたいなって、そう思ったんです。


 おれの心は、初めはカチンコチンで、笑うことなんてできませんでしたが、みんなのおかげで笑うことができて、心のまわりは溶けていました。

 でも、心の芯はまだ冷たくなったままだったから。

 そんな心の奥を、彼女が一緒に溶かしてくれると言ってくれました。


 おれは本当に嬉しかった。

 なぜか彼女には、おれの冷たくなったところを見て欲しい。中に入って溶かして欲しいって、そう思いました。


 でも、彼女にばっかり任せてばっかりじゃいけないと思うので、おれは今日から『それ』を文章にしたいと思います。

 少しずつでもいい。
 ひと文字でもいいから、自分と向き合います。


 いつになるかはわからないけど、ちゃんと書いて、彼女にもみんなにも、もちろんおじさんにもお母さんにも、おれの心を、そして思いも知ってもらおうと思います。

 今まで溶かせなかったものを溶かすなんて、簡単でないことはわかってます。


 それでもおれは、おれの中に入ってきてくれた彼女のように強くなりたい。

 お母さんに『ごめんなさい』と『ありがとう』を。

 きちんと言えるようになりたいと思います。