ご飯も食べず、話さず笑わず、ただ毎日水だけを飲んで過ごしていたある日、お母さんがこう言いました。
「おーちゃん、一緒にお父さんのとこに行こ?」
そう言ってお母さんは、おれの首に手を伸ばしました。
ご飯も食べていなかったおれは、もう抵抗する気力も、逃げる気力も残っていませんでした。
でもまた、お父さんとお母さんと一緒に暮らせるのかもしれないと、少し嬉しくもありました。
でもお母さんの力は一向に入ってこなくて、ただ首元に手を置いて、涙を流していました。
そんな時、またたまたまおじさんが家に来てくれました。
そんな状態になっているおれたちを見て、おじさんはお母さんからおれを引き離しましたが、それからお母さんは狂ったようにおれの名前を叫び出しました。
その時のお母さんの目がとても怖くて、おれはただただおじさんにしがみつきました。
おれに向かってきそうになっていたお母さんを、おじさんは押さえつけていました。
お母さんはもう、だいぶ前から壊れていました。
それでも今まで保ってこられたのは、毎日見ていたお父さんの写真のおかげなのかもしれません。
押さえつけられながら、お母さんはおれの名前を叫びました。
「あんたはわたしの子だ! わたしがいいって言うまで誰にも喋るんじゃないわよ!」
その時のお母さんの狂ったような叫び声と目は、今にもおれを殺してきそうでした。
それからおじさんが、お母さんを病院に連れて行ってくれました。そこに行っても、おれを見て暴れ出すお母さんが、おれは怖くなりました。
それからすぐに、おじさんがおれを引き取りたいと言ってくれました。弱り切っていたおれも、同じ病院で入院していた時のことです。
おれはただ、お母さんのそばにいることが、会ってしまうことが怖くて。
「お母さんが怖い」
「会いたくない」
「おじさんはそばにいて」
泣きながら、おじさんに頼みました。
その言葉を最後におれは話せなくなり、笑うこともできなくなりました。
おれが退院する時、おじさんが何かを持ってきました。それは、お母さんがいつも着けていた【タンザナイトのブレスレット】です。
おれが退院することを、少し精神状態が落ち着いていたお母さんに話したそうです。
そうしたら、肌身離さず持っていたそれを渡してくれたそうです。おれを、守ってくれるからと。
おれはこの時後悔しました。
なんでお母さんを怖いと思ってしまったんだろう。
どうして会いたくないなんて言ってしまったのだろう。
もう話せなかったおれは、いつか話せるようになったら絶対に謝ろうと決めて、それを受け取りました。



