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 帰り支度をしていると再び理事長室の扉がノックされる。返事をする前にガチャリとまた扉が開いた。


「みーくん。今大丈夫?」

「桜李? もちろんいいよ! そうだ! ぼくと一緒にマ○カを――」

「しない」

「そ、そう……」


 はっきり断られていじけていると、そっとオウリが何かを手渡してくる。


「みーくん。さっきはちゃんと言えなかったんだけど。おれ、ちゃんと声出るようになったよ」

「……ああ。ほんとうに、よかった」


 嬉しそうな彼に、嬉し涙が出そうになる。


「あーちゃんにね? お手伝いしてもらったんだ。おかげでお母さんともちゃんと話せた。ちゃんと謝れた」

「……どうして桜李が、謝る必要が」

「お母さんをね、怖いと思っちゃったから。会いたくないって、ちょっとでも思っちゃったから」


「詳しくはこれに書いてあるからっ!」と、少しだけ照れくさそうに指差す手紙へと、視線を落とす。


「みーくん。おれ、あーちゃんと友達になれて、本当によかった。みーくんに言われたとおり、生徒会に引き留められて、よかった」


「まあ絶対友達になりたいって思ってたから、みーくんがもし逆に『引き留めるな』って言ってても、おれは絶対にあーちゃんを生徒会に入れてたし、友達にもなってたと思うけどね!」と、オウリが笑う気配がする。


「みーくん。おれ、絶対にあーちゃんのこと助けるからね。きっとおれだけじゃない。みんな、絶対にあーちゃんのこと助けるから。知ってる? みんなが集まれば百人力なんだよ! ……だからみーくん。安心して待ってて? 絶対に助けるから。……みーくんが一番つらそうだよ」

「――!」


 弾かれるように顔を上げる。そこには自信満々の、満面の笑みを浮かべているオウリが。


「みーくんも、あーちゃん心配なんだよね」

「……ああ。きっとこれ以上の心配事は、もう一生ないだろうね」


 手紙を戻して、オウリに返す。


「つらかったな桜李。……何もしてやれなくて、悪かった」

「え。何言ってるのみーくん。おれのために、理事長になったんでしょ?」

「桜李……」


 理事長という立場を早々に目指したのは、彼を助けてあげられるかも知れないと思ったからだ。だから最短で、ここを譲り受けた。


「うざい時もあったけど。ほぼうざかったけど」


 そんなことを、今まで思っていても聞けなかった。表情ではなく言葉で。だから。


「ずっと、おれのこと見ててくれて。たくさん遊んでくれて。……ありがとう。みーくんっ」


 ……それだけで十分だ。