「さてと。茜くん、今の話に補足があればお願いしよう。スタート地点はみんな一緒じゃないとね」
「え? でも、ヒナタは何も聞いてないんじゃ」
「彼はまだ、スタート地点にも立てないよ。翼くんも。そのことも、彼らはわかっているよ」
「……じゃあ、おれとあきクン、つばさクンが知ってることを話します」
アカネは、思い出しながらゆっくりと話し出した。
彼女が生徒会に入って、生徒会の仕事以外にしていること。それが『願い』だということ。
アカネ自身もそれしか知らなくて、これは話せないことだということ。
「あおいチャン自身を『全て』知っている人は、理事長、しんとサン、道明寺、そしてあおいチャン自身」
今のアカネの言葉に思わず目を細めたことは、誰も気がつかなかったようだ。
「全てって、どういうこと。あかね」
「全ては全てだよ、おうり。……それから、少しでも知ってる人は」
生徒会のメンバー。そして、朝倉菊。桐生杜真。
シントの予想も入ってるから、当てにはならないかもしれないと付け加えて。
「それから、あおいチャンが倒れたのはみんな知ってるよね」
「うん。かなちゃん家で倒れたよね」
「いや、アカネの家でも一度倒れてるんだ」
「……! だから、アカネとカナはあの時動揺してなかったのか」
「動揺はしてたよ。正直ひなクンも知ってるとは思わなかったし。でも、倒れた原因は知らない。これはあおいチャンに近づくことだから、何となく知っているあきクンも話せなかったんだ」
「アキは、どうしてアオイちゃんが倒れたのか、なんで冷たくなったのか知ってるってこと……?」
「厳密に言えば『少し』だと思うよ。でも教えられないから、これは自分一人で知って」
話を聞いた全員がつらそうな顔をしている。もちろん、話をしたアカネ自身も。
「人には、言っていい情報とそうでない情報がある。おれも、おれだけしか知らないあおいチャンのことを知ってる。きっと、みんなも何となくそれはあるんじゃないかと思うけど……」
一人一人の目の色が変わる。心当たりがあるように。
「最後におれは、理事長から話を聞いたみんなを、次の人に導かないといけない」
「それじゃあ茜くん。あとはお願いしてもいいかな」
「はい。あとは、おれら一人一人があおいチャンに近づいて彼女を知ります」
「……ありがとう。頼んだよ」
一瞬アカネが目を見張る。だから、彼は気付いたのだろう。
彼らに『話したい』のに『話せない』のだと。



