すべてはあの花のために④


 流産してしまったショックで、お母さんは笑えなくなってしまいました。話すことも、そのうちできなくなりました。

 毎日毎日、家から出ることもなく、ただぼーっとしていました。
 時々お父さんの写真を見ては、声も出さずに泣いてました。


 ご飯も作れなくなったお母さんのために、一生懸命おれはご飯を作る練習をしました。
 でもお母さんは、そのうち食べることも止めました。

 おれがまだ小さかったので、ただ切っただけのものを出していたからだと思いました。
 自分ができる精一杯のことをしましたが、次第に食べるものがなくなりました。


 お母さんに何もしてあげられなくなったおれは、いつもお母さんにお話をしました。

 でもおれが話せることなんて、昔の話くらいでした。それでも、楽しい思い出を話したらお母さんもきっと元気になってくれると、そう思っていました。



 でもある日、お母さんに話しかけようとしたら、お母さんに殴られました。
 その時、お母さんはこう言いました。


「もう話しかけないでっ!」

 だからおれは、それから話すことをやめました。


 なら、おれが笑顔だったら、お母さんも笑顔を返してくれるんじゃないか。そう思って、それからはただ話さずに、笑顔でいることにしました。



 でもまたある日、今度はお母さんに蹴られました。
 その時、お母さんはこう言いました。


「なんで笑えるの。笑わないで」

 それからおれは、笑うこともやめました。