すべてはあの花のために④


「でもさ、あーちゃんの冷たくなっちゃうのが治っても、他の人を好きになったら意味ないよね」

「えっ?」

「それまでにおれのこと、好きになってもらってたらいいのかな」

「おっ。おうりくん……?」


 意地悪な笑みを浮かべたオウリは、葵の頬と腰に手を添えてくる。急に空気が変わって、葵は逃げ出したくなった。


「あーちゃん。おれのこと怖い?」

「えっと……うん。ちょっと」

「どうして?」

「う。……ウサギさんが、なんでかオオカミさんに見えるから……かな?」


 おどおどしながら、目を泳がせながら、取り敢えず言ってみる。

 すると彼は、にっこりと笑った。


「あは。……大正解」

「――! んむっ」


 そうして、葵の唇を奪った。
 やわらかくて、やさしくて、あたたかくて。何度も啄むようなキスを、唇に落としていく。


「っんー!」


 唇を押しつけられて、舐められて。
 最後にもう一回、ちゅっと音を立てて、彼は離れていった。


「ふう。……ごちそうさまでした?」


 酸欠か、それともブラックウサギのあざとかわいさにか。力が抜けた葵の体は、オウリの腕の中にいつの間にか収まっていた。


「あーちゃん、すっごい可愛かった」

「……!?」

「ねえ。もう一回食べてもいい?」

「だっ、ダメに決まっ」

「ごめん。おれが無理だった」

「――!」


 オウリは葵の頭を引き寄せて、顔中にキスをたくさん落としていく。


「っ、んっ。ちょ、ひゃっ」


 がっちり固定されてしまって、力が入らなくて、押し返そうにも簡単に手を取られてしまう。
 でも、決して強引なものではなくて、葵を安心させるような、やさしい口づけで。

 恥ずかしくなって、ぎゅっと顔を真っ赤にして必死に堪えていると、髪を梳く彼の指が耳に触れて。瞬間、葵の体がビクッと大きく跳ねる。

 目蓋をゆっくりと押し上げると、愛おしげにこちらを見つめるオウリの瞳と目が合う。そのまま彼は葵を自分の方へ引き寄せた。


「……おれなんかより、あーちゃんの方が可愛いに決まってるじゃん」


 ぎゅっと、力を込めて。
 葵の体を、包み込むように。


「……絶対におれが、あーちゃんのこと、治してあげるから」

「……おうり。くん……」

「だから少しは、おれのこと。ちゃんと男として意識して」

「――!」

「ウサギだって、たまにはオオカミになるんだ。よーく覚えておいて」

「(こくこくこくこく……!)」


 頷くので精一杯だった葵は、その後彼が満足するまで、むぎゅーっと抱き締められていた。