すべてはあの花のために④


「じゃあ、なんでこんなに手が冷たくなってるのっ」

「……寒いから、かな」


 明かりは消えていても暖房はしっかり効いている。寧ろ暑いくらいだろう。


「……おれには、話したくない……?」

「……ううん。違うんだよオウリくん。これは、『話せないこと』なんだよ」

「話せない、って……」


 オウリは眉間に皺を寄せながらも、葵の手をぎゅっと握ったり、摩ったりして温めようとしてくれていた。


「ごめんねオウリくん。ほんとごめん。……でも、君が話せるようになって、わたしは今。とっても嬉しくて仕方がないんだ」

「あーちゃんの話せないことは、話せるようにはならないの?」


 葵はそれには答えなかった。
 ただ、苦笑いをするので精一杯だった。

 答えられない葵に、オウリは「だいじょうぶだよ?」と笑って返してくれた。


「じゃあ、あーちゃんが冷たくなくなるまで、ずっと手握っててもいい?」

「……うん。ありがとう」


 そうして二人は笑い合い、寄り添い合う。



「……あーちゃん。おれ、話せるようになったよ」

「うん。そうだね」

「あーちゃんにおれの声、聞いてもらいたかったんだ。ずっと」

「……今のオウリくんなら、言っても大丈夫かな」

「? なあに?」

「オウリくんね? 寝てる時……魘されてる時は、声が出てたんだよ」

「えっ」

「それは、アカネくんも知ってる。他のみんなはどうか知らないんだけど、わたしは正確に言うと、オウリくんの『魘されてる声』は、聞いたことがあったの。だから、ずっと何とかしてあげたいと思ってた。どうにかして、君が話せるようにしてあげたいって、そう思ってたんだ」


 葵は、少しずつ温かくなってきた手で、今度はオウリの手を包み込んであげる。


「……オウリくん。前言った言葉、もう一度君に言うよ。自分の気持ち、聞いてみて?」


 文化祭初日。オウリが葵に、葵がオウリに聞いたあの、言葉。


「オウリくん。あなたは今、たのしい? うれしい? しあわせ? 君は、心から笑えてるかな?」


 オウリはにっこり笑って、こう答える。


「あーちゃん。おれは今、すっごく楽しい! 嬉しいし、ほんっとうに幸せ! おれ、ちゃんと笑えるよ。本当に心からっ!」


「それはよかったっ」と葵がオウリに笑いかける。


「オウリくんの声、みんなに届かせてあげようねっ!」

「うんっ。その前に、あーちゃんに届かせたいことがあるんだ」