「じゃあ、なんでこんなに手が冷たくなってるのっ」
「……寒いから、かな」
明かりは消えていても暖房はしっかり効いている。寧ろ暑いくらいだろう。
「……おれには、話したくない……?」
「……ううん。違うんだよオウリくん。これは、『話せないこと』なんだよ」
「話せない、って……」
オウリは眉間に皺を寄せながらも、葵の手をぎゅっと握ったり、摩ったりして温めようとしてくれていた。
「ごめんねオウリくん。ほんとごめん。……でも、君が話せるようになって、わたしは今。とっても嬉しくて仕方がないんだ」
「あーちゃんの話せないことは、話せるようにはならないの?」
葵はそれには答えなかった。
ただ、苦笑いをするので精一杯だった。
答えられない葵に、オウリは「だいじょうぶだよ?」と笑って返してくれた。
「じゃあ、あーちゃんが冷たくなくなるまで、ずっと手握っててもいい?」
「……うん。ありがとう」
そうして二人は笑い合い、寄り添い合う。
「……あーちゃん。おれ、話せるようになったよ」
「うん。そうだね」
「あーちゃんにおれの声、聞いてもらいたかったんだ。ずっと」
「……今のオウリくんなら、言っても大丈夫かな」
「? なあに?」
「オウリくんね? 寝てる時……魘されてる時は、声が出てたんだよ」
「えっ」
「それは、アカネくんも知ってる。他のみんなはどうか知らないんだけど、わたしは正確に言うと、オウリくんの『魘されてる声』は、聞いたことがあったの。だから、ずっと何とかしてあげたいと思ってた。どうにかして、君が話せるようにしてあげたいって、そう思ってたんだ」
葵は、少しずつ温かくなってきた手で、今度はオウリの手を包み込んであげる。
「……オウリくん。前言った言葉、もう一度君に言うよ。自分の気持ち、聞いてみて?」
文化祭初日。オウリが葵に、葵がオウリに聞いたあの、言葉。
「オウリくん。あなたは今、たのしい? うれしい? しあわせ? 君は、心から笑えてるかな?」
オウリはにっこり笑って、こう答える。
「あーちゃん。おれは今、すっごく楽しい! 嬉しいし、ほんっとうに幸せ! おれ、ちゃんと笑えるよ。本当に心からっ!」
「それはよかったっ」と葵がオウリに笑いかける。
「オウリくんの声、みんなに届かせてあげようねっ!」
「うんっ。その前に、あーちゃんに届かせたいことがあるんだ」



