すべてはあの花のために④


 そんな仲睦まじい二人の様子に、ヒエンはだらしなく涙と鼻水を流し、看護師と担当医もハンカチで目元を押さえつつ、「また後程来ますので」と言って席を外した。


「おかあさんっ。おれっ、……おれっ!」

「うん。なあに? ゆっくりでいいのよ」


 オウリはカリンからゆっくりと離れ、ベッド横の椅子に座ったあと、自分の左腕に着いていたブレスレットを外して、母に着けてあげた。


「……おれ。おかあさんに。ずっと。あやまりたかったんだ」

「お母さんも。ずっと、おーちゃんに謝りたかったんだけど。今は違うことを、言って欲しいな」

「え? ……えっと。おかあさん。おれを生んでくれて『ありがとう』?」

「わーお! なんでそんなこと言うのー! それ一番最後に言うやつじゃないのっ?!」

「え? ええ?」

「もう! 本当にいい子なんだからっ!」


 息子の頭を、心底幸せそうにわしゃわしゃと撫で回す母。


「わあ~っ。お、おかあさんっ、ちょ。まってよ……」

「おーちゃんがいい子過ぎて可愛すぎて、誰かに食べられちゃうんじゃないかってお母さんは心配だわっ!」


 母がそう言った瞬間、オウリとヒエンがバッと葵を見てきたので、慌てて視線を外しておいた。


「……お母さん? たくさんたくさん『ありがとう』がいっぱいあるんだ。でも、これは今、言っておきたいんだ。聞いて、くれる?」

「うん。もちろんよ。おーちゃん」


 オウリは姿勢を正し、真っ直ぐに母の目を見つめる。


「……おれ。あの時のお母さんのこと、怖いって。思っちゃったんだ」


 カリンは、ただじっとオウリの言葉を聞いていた。


「ごめんなさい。おれはいい子じゃないんだ。お母さんのこと怖いって。思っちゃって。お母さんにその時は『会いたくない』って。……思っちゃった。それをすっごい後悔してて。ずっと、謝りたかったんだ。でも、声が出なくなった。怖くて、おれはずっと、怯えてた」

「おーちゃん……」

「でもおれ、いろんな友達に会ったんだ。いろんなこと、教えてもらった。本当に今まで楽しかったよ! たっくさん、お話ししたいこと、あるんだ! そのお友だちの一人に、おれも強くしてもらったんだよ」


 オウリ越しにこちらを見つめるカリンの視線には、後ろに手を組んでにっこりと笑顔を返すだけ。


「だから、おれはやっと、ここまで来られたんだ。そのおともだちに付いてきてもらっちゃったけど……お母さん。ここに来るのが遅くなって『ごめんなさい』。会えて、話せて。……おれ、今すっごい嬉しいっ」

「……っ、おーちゃんっ」


 ぎゅうっと、カリンはオウリを抱き締めていた。
 そんな母に、彼も腕を回して嬉しそうに笑っていた。