すべてはあの花のために④


「おーちゃん。ここまで来てくれて、『ありがとう』」

「……! ……。……っ(こくり)」


 オウリは、母ににっこりと笑って答えた。


「わたしに、会いに来てくれて『ありがとう』おーちゃん」

「(こくこくっ!)」


 嬉しそうに、何度も彼は頷いた。ヒエンたちの目元には、微かに涙が浮かんでいるように見えた。


「それじゃあ、おーちゃん? いい子で待ってたおーちゃんに、わたしが魔法の呪文をかけてあげましょお~」

「……?」


 オウリはよくわかってないのか、首を傾げていたけれど。


「かくれんぼがとっても強い鬼さんに、わたしはこう言いましょう。『もおーいいーよお~』って。さあ鬼さん? もう探しに来ていいですよ? その代わり、わたしのとっても大好きなおーちゃんに、とっても可愛い声を返してあげてくださいな?」

「……! ……。っ……」

「おーちゃん。今までちゃーんと、お母さんが言ったことを守ってくれていてありがとう。おーちゃんはとってもいい子ね? さっすがわたしの自慢の息子だっ」

「……っ。ーーーっ」

「もうお話ししてもいいのよ? 今のおーちゃんは、どんな声なのかな? お母さんに、聞かせて欲しいなー」

「…………っ。ーーー、ーーっ」


 ぱくぱくと、頑張って口を動かしている彼を、その場の全員が見守った。


「(大丈夫だよオウリくん。君はもう強い。お母様も強い、元のお母様だ。あとは……――君だけだ)」


 彼の息に、少しずつ音が混じり始める。


「……っ。ーーー、ーんっ」


 静かな病室に、何かが聞こえ出す。
 小さく、でも、確かな、彼の声が。



「ぉ、ーーーっさ、んっ」

「えー? わたしは『おっさん』じゃないぞ?」


 そう言う母に、彼は「ははっ」と、声を出して笑った。


「……はっ。……お、かっ、……さんっ」

「あれ~? 『おかっさん』だなんて、おーちゃんに呼ばせたことないんだけどなあ?」

「……っ。おかあ、……さんっ」

「……うん。なあに? おーちゃんっ」

「おかあ、さんっ」

「うんっ。おーちゃん」

「おかあさん……っ!」

「おーちゃんっ」


 声が。母を呼ぶ声が。
 病室中に、……ううん。きっと病室の外にも、響いた。