「おーちゃん。ここまで来てくれて、『ありがとう』」
「……! ……。……っ(こくり)」
オウリは、母ににっこりと笑って答えた。
「わたしに、会いに来てくれて『ありがとう』おーちゃん」
「(こくこくっ!)」
嬉しそうに、何度も彼は頷いた。ヒエンたちの目元には、微かに涙が浮かんでいるように見えた。
「それじゃあ、おーちゃん? いい子で待ってたおーちゃんに、わたしが魔法の呪文をかけてあげましょお~」
「……?」
オウリはよくわかってないのか、首を傾げていたけれど。
「かくれんぼがとっても強い鬼さんに、わたしはこう言いましょう。『もおーいいーよお~』って。さあ鬼さん? もう探しに来ていいですよ? その代わり、わたしのとっても大好きなおーちゃんに、とっても可愛い声を返してあげてくださいな?」
「……! ……。っ……」
「おーちゃん。今までちゃーんと、お母さんが言ったことを守ってくれていてありがとう。おーちゃんはとってもいい子ね? さっすがわたしの自慢の息子だっ」
「……っ。ーーーっ」
「もうお話ししてもいいのよ? 今のおーちゃんは、どんな声なのかな? お母さんに、聞かせて欲しいなー」
「…………っ。ーーー、ーーっ」
ぱくぱくと、頑張って口を動かしている彼を、その場の全員が見守った。
「(大丈夫だよオウリくん。君はもう強い。お母様も強い、元のお母様だ。あとは……――君だけだ)」
彼の息に、少しずつ音が混じり始める。
「……っ。ーーー、ーんっ」
静かな病室に、何かが聞こえ出す。
小さく、でも、確かな、彼の声が。
「ぉ、ーーーっさ、んっ」
「えー? わたしは『おっさん』じゃないぞ?」
そう言う母に、彼は「ははっ」と、声を出して笑った。
「……はっ。……お、かっ、……さんっ」
「あれ~? 『おかっさん』だなんて、おーちゃんに呼ばせたことないんだけどなあ?」
「……っ。おかあ、……さんっ」
「……うん。なあに? おーちゃんっ」
「おかあ、さんっ」
「うんっ。おーちゃん」
「おかあさん……っ!」
「おーちゃんっ」
声が。母を呼ぶ声が。
病室中に、……ううん。きっと病室の外にも、響いた。



