すべてはあの花のために④


「そのことを伝える前に、会って欲しい人がいます」

「……そう、ね」


 きっと、彼女は怖いんだろう。彼をまた、怖がらせてしまうことが。体が。瞳が。震えていた。


「カリンさんは、もう元通りですよ?」

「……ええ、わたしはもう、強いわ」


 けれど、怖がっているだけ。
 だから、もう大丈夫。


「彼に会ったら、まず何をしてあげますか?」


 葵はゆっくりと立ち上がり、ベッドから離れていく。ベッドに座る彼女に、笑顔を向けながら。


「……名前を、呼んであげたいわ」

「はいっ。それから?」


 ゆっくりと、病室の扉の方へ。


「……抱き締めて、あげたい」

「それからそれから?」

「ごめんねって、謝りたいわっ」

「うーん、それはちょっと違います」


 葵は一旦止まる。


「まずは、ここまで来てくれて『ありがとう』って、言ってあげてください」


 笑顔の葵に、彼女は目を見開いたあと、同じようにふわりと笑う。


「……そうね。わたしに会いに来てくれて、ありがとうって。そう言うわ」

「はいっ。それじゃあ最後に、いい子で待っていた彼に『もういいよ』って。言ってあげてくださいね」


 そうしてにっこり笑った葵は、扉をゆっくりと開けた。