「そのことを伝える前に、会って欲しい人がいます」
「……そう、ね」
きっと、彼女は怖いんだろう。彼をまた、怖がらせてしまうことが。体が。瞳が。震えていた。
「カリンさんは、もう元通りですよ?」
「……ええ、わたしはもう、強いわ」
けれど、怖がっているだけ。
だから、もう大丈夫。
「彼に会ったら、まず何をしてあげますか?」
葵はゆっくりと立ち上がり、ベッドから離れていく。ベッドに座る彼女に、笑顔を向けながら。
「……名前を、呼んであげたいわ」
「はいっ。それから?」
ゆっくりと、病室の扉の方へ。
「……抱き締めて、あげたい」
「それからそれから?」
「ごめんねって、謝りたいわっ」
「うーん、それはちょっと違います」
葵は一旦止まる。
「まずは、ここまで来てくれて『ありがとう』って、言ってあげてください」
笑顔の葵に、彼女は目を見開いたあと、同じようにふわりと笑う。
「……そうね。わたしに会いに来てくれて、ありがとうって。そう言うわ」
「はいっ。それじゃあ最後に、いい子で待っていた彼に『もういいよ』って。言ってあげてくださいね」
そうしてにっこり笑った葵は、扉をゆっくりと開けた。



