すべてはあの花のために④


 葵の言葉に、カリンは一筋の涙を流し、ゆっくり胸の内を話してくれた。


「……わたしはね。絶対にあの人のこと、疑ってなんかいなかったの」


 それは、騙されて警察に拘束されてしまった夫、大樹のこと。


「誰になんと言われようとも、あの人があんなことできるわけないもの。……それくらい、ちっさい男だったの」

「じゃあきっと、カリンさんがいつも旦那さんのお尻を叩いていたんですね?」


 カリンは「そうなのっ」と、拗ねたような。でも嬉しそうな顔をしていた。


「無実が晴れて、帰ってきたらたくさん『お疲れ様』って言ってあげようと思ってたわ」

「……たくさん、言ってあげられました?」

「ええ。たくさん言ったわ。……でも、それが彼は嫌だったみたいなの」

「それはどうして?」

「いつも、苦しそうな悲しそうな顔をして笑うの。わたしには、どうしていいかわからなかった」

「……きっと、それは旦那さんもだったのではないでしょうか」

「え?」


 葵はにこっと笑った。


「あなたに変わりない愛情をもらって、ちょっと恥ずかしかったんじゃないかなって。こんな自分を愛してくれるなんて、迷惑を掛けたのにと思いつつ、嬉しかったけど、どう返していいかわからなかったのかもしれませんよ。だって旦那さん、ちっさい男だったんでしょう? あなたの愛情を、上手に受け止められなかったんです。それくらい、あなたの愛が大きかったから」

「……そっか。そうかもしれないわね?」


 彼女はふわりと笑ってくれた。


「あの人は、自分を責めて。耐えきれなくなって。自ら命を絶った。わたしは、結局あの人を助けてあげられなかったんだと思った。自分のことを責めて責めて、……とことん責めたわ」

「カリンさん……」

「でも、絶対にあの人のこと忘れるもんかと思って名前も譲らなかった。どうせなら、あの人のことを犠牲にした会社をごろっと変えてやろうとさえ思ったわ!」

「カリンさん、とっても男らしい……」

「ふふ。そうなの。よく言われてた。……まあ、今はちょっとダメね。いろんな人に、たくさんのことを言われてきた。旦那が元犯罪者だの、自殺しただの、可哀想な奥さんだの。……あーもうっ! うるさーい! って。いつも思った」


 どうやら彼女、実はとっても男勝りな方のようだ。


「何が元犯罪者よ! 犯罪者じゃないわよ! 自殺しただあ? ……そうね。それはしちゃったけど。それはだって、責任を感じさせるよう、プレッシャーを与えた会社が悪い! わたしが支えられなかったのも悪かったけど! ……何が可哀想な奥さんよ。あの人がいるだけでわたしはすっごい幸せだった! あの人と息子と、三人で暮らせるだけで、十分幸せだったの……!」