そうしてお父さんが警察の人に捕まって一年ぐらい経った頃、お父さんとお母さんが迎えに来てくれました。
 でも、お父さんたちは、笑顔じゃありませんでした。無理しているように笑っていました。

 だったらおれが笑ってあげないとと思いました。
 きっとおれが笑顔だったら、お父さんもお母さんも笑ってくれるだろうと。


 だから、「お帰りなさいっ」って。目一杯の笑顔で言いました。
 でも二人は笑顔にならず、ただただ泣いていました。



 そのあと二人は、おじさんと何やら深刻な話をしていました。
 あとから聞いた話によると、お父さんは騙されて【薬】を密売していたようでした。

 おれは、これからは元通りの生活に戻るんだと、そう思っていました。
 でも三人で家に戻っても、温かい雰囲気も、笑顔も、元通りにはなりませんでした。


 お父さんは、ただ何かに怯えて家の中にずっといました。
 お母さんは、そんなお父さんに必死に声を掛けてあげていました。


「あなたはよくやったわ」
「今までしんどかったでしょう?」
「ゆっくり元に戻していきましょうね」

 お母さんは、お父さんに声を掛け続けました。



 それから、働いていなかったお母さんがお父さんの代わりに働き始めた頃、お父さんが氷川と縁を切ると言っていました。

 お母さんは、それでお父さんが落ち着くのならそれでいいと言って、止めませんでした。
 でもそのあとすぐ、お父さんはお母さんと別れようと言ってきました。


 お母さんもお父さんも、二人とも大好きなのに、どうして別れないといけないのか。その時のおれにはわかりませんでした。

 お母さんは、お父さんがなんと言おうとも、絶対に受け入れませんでした。
 お父さんを一人にはさせられない。自分も一緒にこれから変えていきたいと、そう言っていました。


 そんなお母さんの言葉にお父さんは、笑顔を浮かべていました。全てを、諦めたような。

 その日、二人は一緒に寝ていました。
 おれは、そっとしておくことにしました。