すべてはあの花のために④


 にっこり笑って尋ねると、彼女はゆっくりと葵へ視線を合わせた。潤んだ瞳が、真っ直ぐ懇願するように見つめてくる。


「……教えて欲しい。あおいさん。わたしもとっても弱いの。苦しいの。寂しいの。悲しいの。そのせいで、たくさんの人に迷惑を掛けているの。……こんな自分とは、早くさよならしたいのよ」


 必死に彼女は言葉を紡いでくれた。
 そんな彼女の様子を、ヒエンはどこか申し訳なさそうな顔で見守っていた。



「それではカリンさん。まずは、お話してもらってもいいですか?」

「……おは、なし… ……?」

「自分の、そういう暗い部分って、人にはなかなか話せないですよね」

「……うん。そうね。だって、話しても何も解決しないもの」


 諦めた表情をするカリンに、葵はゆっくりと首を振る。


「言葉にすることで、あなた自身の心が、ほんの少しだけスッキリしたような、軽くなったような気持ちになりますよ」

「……かるく。なるかしら」


 彼女から飛んでくるのは、疑うような眼差しだ。


「話をしたら、きっと思い出してしまうでしょう。強くなるということは、つらいことと向き合うこと。そう思えていれば、あなたがちゃんと強くなっている証拠です」

「あおいさんは、何か知っているのね」


 彼女が、すっと目を細くして葵を見つめる。


「驚かせてすみません。あなたが愛おしくてしょうがない人に、聞いたんです」

「……そう。あの子が、話したのね」


 彼女の纏う空気が変わる。
 医者やヒエンが体勢を変えるが、葵は静かにそれを制した。


「カリンさん。彼はまだ話せません。あなたの言いつけ通り、彼はまだ、あれから一言も『話していない』んです」

「それって……」


 カリンの頬にそっと手を添える。白くてとても滑らかだ。


「彼からは、文字で教えてもらいました。……カリンさん。彼も、とても強くなりました。だからあなたもどうか、最後まで諦めないで。あなたの心を聞かせてください。きっと心が軽くなります。……来年の桜は、こんな遠くからではなく、近くまで行って、彼と一緒に見てあげてくれませんか?」