白いベッドの上。窓の外を見ている女性はまるで、花のお姫様のように可憐で、とても美しく、とても儚く見えた。
「……あら。どちらさま?」
話す声さえ、ずっと聞いていたいほど透き通っていて耳が心地いい。
「はじめましてカリンさん。わたしは『あおい』と言います」
「あおいさん?」
「はい。そう呼んでいただけると嬉しいです」
笑いかけると、彼女もふわりと笑い返してくれた。
葵は、ベッド横に用意されていた椅子に腰を掛ける。医者たちは、どうして無関係の葵が来たのだろうと頭を捻らせていた。けれどヒエンが事情を話しているのが聞こえ、同時に葵に任せておいて欲しいと説得してくれていた。
「カリンさんは、食べ物は何が好きですか?」
「そうね。わたしは梨が好きかしら。炎樹くんが美味しく剥いてくれるの」
嬉しそうに彼女が笑う。ちらりとヒエンの方を見たら、説得の最中会話が聞こえていたのか、慌てて葵から視線を逸らしていたけれど。
「窓から見える木は、あれは桜ですか?」
葵は彼女の心に少しずつ入っていけるようにたくさんのことを話す。
「そうね。春になったらとっても綺麗に咲くの。……まだ、春まではちょっと長いわね」
まずは、病室から少し離れたところに見える、何本もの大きな木から。
「カリンさんは、桜の花が好きですか?」
「ええ。とっても好きよ。愛しているもの」
カリンは、葉も落ちてしまった寂しい木を見つめていた。
「……『大きな樹』も、愛していらっしゃるんですね」
「そうね。愛して、いたのだけれど……」
医者たちがそわそわし始めたが、まだ大丈夫だ。
「カリンさん。よければ、あなたの心をわたしに話していただけないでしょうか」
「……わたしの、心?」
ふわりと笑って、彼女が安心できるような声色で話す。
「わたしのお友だちに、いつも寂しくて、いつも悲しそうな子がいたんです。でも、その子はとっても強くなりました。何故だかわかりますか?」
「? なんでだろう。教えてくれる?」
「はいっ」と、葵はそっと彼女の手を取った。
「その子が、気づいたからなんです。自分が、たくさんの人たちに見守られていたことを」
とんとんと。カリンの手をゆっくりと、やさしく撫でるように叩く。
「でも、ちゃんとそれを受け止められなかったんです。……自分が、弱かったから」
「たくさんの人がいたのでしょう? それだけでもう、十分支えてもらえているじゃない」
「そうですね。でもその子は素直じゃなくて、その温かいものを受け止めることを、無意識にしなかった。できなかったんだと思います」
「…………」
「それでもその子は、強くなりました。苦しい気持ちと寂しい気持ちと悲しい気持ちと、自分が向き合えたから。カリンさんも、どうやって向き合ったのか知りたくないですか?」



