時刻は18時。裏門前にヒエンがやってきて、病院へと向かった。
「悪いなお嬢ちゃん。付き合ってもらってよ」
「いえ。それよりもヒエンさん、先日は――」
彼は、片手で葵のその先の言葉を制した。
「お嬢ちゃんが元気ならそれでいい」
「……はい。ありがとうございます」
何も聞かないでいてくれる彼が、すごくあたたかかった。
「それはそうとヒエンさん。オウリくんにはちゃんと言ったんですよねえ?」
「え。なんでいきなりそんな強気なんだ、お嬢ちゃん……」
葵がそう言うと、オウリがにっこり笑っていた。
「そうですかそうですか。丸っとごろっと全てまとめて話せたみたいでよかったですねー」
「……なんで俺にそんな当たり強いんだよ」
肩を落としているヒエンも、何だかんだ葵にも報告ができてちょっとだけ喜んでいるみたいだった。
それから、葵が帰ったあとの話を聞いた。みんなはすごく心配そうな顔をしていて、本当に迷惑を掛けてしまったと思っていたけれど。
〈あーちゃんの元気な姿と笑顔が見られた
それだけでみんなも安心したし
みんなも元気になったから大丈夫だよ〉
オウリのやさしい言葉のおかげで、葵の胸の奥は、申し訳なさよりもあたたかさが広がった。
そのあとしばらくして、オウリのお母様が入院している百合ヶ丘総合病院に到着した。
オウリが入ったらまた暴れ出してしまうかもしれないということで、先にヒエンが中に入る。しばらくして担当医や看護師が駆け付けてくれて、いつ何が起こってもいいように準備を整えた。
「よし。……入るか」
中から出てきたヒエンに声を掛けられる。
「ヒエンさん。もしよければ、少しカリンさんとお話ししたいんですけど、それは可能でしょうか」
もうオウリの手は、震えてはいなかったけれど。
「ワンクッションということで、わたしが一度間に入ろうかと。わたしなら、もし暴れてもお母様を逆に押さえ込む自信がありますので」
「いや。俺らも医者もいるんですけど……」
これ以上は難しいだろうかと思っていると、葵の背をオウリがとんと叩く。
「オウリくん……」
「(こくり)」
葵ももう、オウリが何を言おうとしているのかわかってきた。だからか、余計に彼の声が聞きたいと、そう思った。
「……もう、震えてないね」
「(こくこく)」
「君は、もう大丈夫だ」
「(こくり)」
「だから、わたしが先にお母様とお話ししてくるね? 呼びに来るまで、もう少しだけ待ってて」
オウリは葵の手をぎゅっと握ったあと、『いってらっしゃい』『待ってるね』と笑って送り出してくれる。
そんな彼に笑い返して、ヒエンとともに彼女が待つ病室へと、葵は入っていった。



