すべてはあの花のために④


「わあっ!」

「おっと。……大丈夫ですか?」

「す、すみません……」


 その力が思ったよりも強かったせいなのか。勢いがよかったせいなのか。それとも葵の足に上手く力が入らなかったせいなのか、葵は彼の腕の中に収まってしまった。


「いえ。私は大丈夫ですよ」

「――――」


 そして、自分を『私』と言う彼に、パズルのピースがピタリとはまる感覚に陥る。

 しかし、こんなことを考えている場合じゃなかった。予鈴が鳴り始めてしまったのだ。


「先輩、急ぎましょう」


 手を取られた葵は、彼に引っ張られながらダッシュで学校へと走り出す。


「(なっ。なになになに……ッ! このベタな展開は……っ!)」


 彼の温かい手に引っ張られ、予鈴が鳴り終わるまでには無事、学校の敷地内に入ることができた。


「はあ。はあ。……っ、はあ」

「だ、大丈夫ですか?」


 最終的に、引っ張ってくれた彼の方が息を切らしていたけれど。


「ど、道明寺先輩は。す、すごいですね。……息。ひとつも。切れ。な……」

「む、無理に喋らなくても……」


 でも、彼がここまで頑張ってくれなければ、きっと今頃葵は遅刻していただろう。


「あなたのおかげで、間に合いました。ありがとうございます」


 だから、きちんとお礼は伝えておこうと思っただけなのだけれど。

 何故か彼は、葵の顔を見て固まってしまった。


「あ。……すみません。あなたの笑顔が見られて、嬉しくて」

「……!」


 ――ああ、ダメだ。どうしても、重なってしまう。


「……っ。じゃ、じゃあ。わたしはもう行くので」


 このままでは彼にも失礼だと、自分の煩悩を振り払いながら立ち去ろうとした。


「道明寺先輩!」


 後ろから声が掛かる。もちろんそれは先程の彼だ。


「1-Sの月雪 蓮(つきゆき れん)と言います! よければまた、お話しさせていただけないでしょうか!」

「……はいっ。それでは、また」


 葵は一度だけ振り向いて、笑顔でそう答えた。