葵の即答に、彼は一瞬言葉に詰まった。
「ご、ごめんなさい。あなたも同じ、あおいさんなのに……」
「ううん。大丈夫だよ。俺は君と一緒でとっても嬉しかったりするから、君にもそう思ってもらえると嬉しいんだけどね」
彼が言葉通りの表情を向けてくるので、葵は慌てて顔を逸らす。
「でも、……そうだな。君が俺の名前呼びにくいなら、なんて呼んでもらおう……」
「えっ?」
「その前に君をなんて呼ぶかだよね。『あい』さん? 『あお』さん? うーん、しっくりこないなあ……」
彼は腕を組んで真剣に悩んでいるようだった。
彼の中で答えが見つかりそうになくて「普通で構いませんよ」と伝えると、「それじゃあやっぱり『あおいさん』って呼んでいい?」と尋ねられて、小さく頷いた。
「俺の場合、実は『あおい』ってなかなか読めないから、いつも『あい』とか『らん』って呼ばれることが多くて」
「そ、そうなんですね」
「だから、君もそう呼んで?」
「へ?」
おっと。素が出てしまった。
「だから、『あい』か『らん』」
「……えーっと」
「だったら、俺のことは『あい』って呼んで?」
「……アイ、さん?」
「えー。せめて『くん』がいい!」
「で、でも、お会いしたのはまだ今日で二回目ですし」
「だめです! 俺のことを、ちゃんと見てもらうには、まずは名前からだと思ってるのでっ!」
そういえば、そんな賭けを彼としたんだった。
「……ふふ。それじゃあ、アイくん。で、いいですか?」
「――!」
彼は何故か、葵の顔を見て固まった。
「あ、あれ? だめ、でした?」
「う、ううん! な。なんか。名前呼ばれるだけでも嬉しくて……」
照れた顔を、彼は両手で隠してしまった。
そういえば、可愛らしい人だったんだと、葵はクスリと笑う。
「……なんで笑うんですかあ」
「なんだかおかしくて。初めてお会いした時も思いましたが、今改めてまた、可愛らしい方だなと再確認していたところです」
すると彼は口を尖らせて拗ねてしまった。
「そんなの、…………に決まってるじゃないですか」
「え? 何ですか?」
「きっ、君の方が可愛いって言ったんですっ!」
「っ、えっ?」
「あ。……す、すみませんっ、つい……」
「つい? ……ふふっ」
でも、やっぱり可愛いのには変わらなくて、つい笑みが零れてしまった。



