すべてはあの花のために④


 葵の即答に、彼は一瞬言葉に詰まった。


「ご、ごめんなさい。あなたも同じ、あおいさんなのに……」

「ううん。大丈夫だよ。俺は君と一緒でとっても嬉しかったりするから、君にもそう思ってもらえると嬉しいんだけどね」


 彼が言葉通りの表情を向けてくるので、葵は慌てて顔を逸らす。


「でも、……そうだな。君が俺の名前呼びにくいなら、なんて呼んでもらおう……」

「えっ?」

「その前に君をなんて呼ぶかだよね。『あい』さん? 『あお』さん? うーん、しっくりこないなあ……」


 彼は腕を組んで真剣に悩んでいるようだった。

 彼の中で答えが見つかりそうになくて「普通で構いませんよ」と伝えると、「それじゃあやっぱり『あおいさん』って呼んでいい?」と尋ねられて、小さく頷いた。


「俺の場合、実は『あおい』ってなかなか読めないから、いつも『あい』とか『らん』って呼ばれることが多くて」

「そ、そうなんですね」

「だから、君もそう呼んで?」

「へ?」


 おっと。素が出てしまった。


「だから、『あい』か『らん』」

「……えーっと」

「だったら、俺のことは『あい』って呼んで?」

「……アイ、さん?」

「えー。せめて『くん』がいい!」

「で、でも、お会いしたのはまだ今日で二回目ですし」

「だめです! 俺のことを、ちゃんと見てもらうには、まずは名前からだと思ってるのでっ!」


 そういえば、そんな賭けを彼としたんだった。


「……ふふ。それじゃあ、アイくん。で、いいですか?」

「――!」


 彼は何故か、葵の顔を見て固まった。


「あ、あれ? だめ、でした?」

「う、ううん! な。なんか。名前呼ばれるだけでも嬉しくて……」


 照れた顔を、彼は両手で隠してしまった。
 そういえば、可愛らしい人だったんだと、葵はクスリと笑う。


「……なんで笑うんですかあ」

「なんだかおかしくて。初めてお会いした時も思いましたが、今改めてまた、可愛らしい方だなと再確認していたところです」


 すると彼は口を尖らせて拗ねてしまった。


「そんなの、…………に決まってるじゃないですか」

「え? 何ですか?」

「きっ、君の方が可愛いって言ったんですっ!」

「っ、えっ?」

「あ。……す、すみませんっ、つい……」

「つい? ……ふふっ」


 でも、やっぱり可愛いのには変わらなくて、つい笑みが零れてしまった。