すべてはあの花のために④


「あ、あれ? お~い。どうみょうじさん?」


 固まってしまった葵に、彼が目の前に来て手を振っているが、葵は全く動かない。


「う~ん。どうしよう……」


 彼は悩んだ挙げ句、葵のほっぺを「失礼しまーす」と、つんつん突いてきた。


「ありゃ。どうしたものか……」


 それでも葵が動かなかったので、「よしっ!」と何か覚悟を決めたのか、彼は耳元で囁いた。


「このままもう一回キス、しちゃいますよ~?」

「――!」


 流石に身の危険を感じた葵は、さっと距離を取って臨戦態勢を取る。


「えー。そんなに嫌がられると傷つくなあ」

「え。あっ。ご、ごめんなさい。つい」


「つい?」と、彼は楽しそうに笑い出した。


「えーっと……」

「そうだった。俺、まだ君に自己紹介してなかったんだっけ」


 こほんと咳払いをして改めた彼は、葵の目の前まで近づいて、にっこりと笑う。


「俺の名前は『あおい』って言います。……一緒だね?」

「……あおいさん、ですか?」

「そうだよ。実は俺の名前も、あおいっていうんだ」


 名字か名前かはわからなかったが、何も言わないのは、もしかしたら何かわけがあるのかもしれないと、葵はただ静かに頷いた。先を促すように。


「下の名前があおいっていうんだけど、どうみょうじさんのあおいはどう書くの?」


 言われてみれば知らないのも無理ないかと、葵は自分の名前の漢字を教える。すると彼は嬉しそうに笑って、自分の名前が『藍』と書くことを教えてくれた。


「そ、そうなんですね。あ、あおい、さん」

「なんだかとっても言いにくそうだね? もしかして、自分の名前嫌いだったりするの?」

「はい。とっても」