「あ、あれ? お~い。どうみょうじさん?」
固まってしまった葵に、彼が目の前に来て手を振っているが、葵は全く動かない。
「う~ん。どうしよう……」
彼は悩んだ挙げ句、葵のほっぺを「失礼しまーす」と、つんつん突いてきた。
「ありゃ。どうしたものか……」
それでも葵が動かなかったので、「よしっ!」と何か覚悟を決めたのか、彼は耳元で囁いた。
「このままもう一回キス、しちゃいますよ~?」
「――!」
流石に身の危険を感じた葵は、さっと距離を取って臨戦態勢を取る。
「えー。そんなに嫌がられると傷つくなあ」
「え。あっ。ご、ごめんなさい。つい」
「つい?」と、彼は楽しそうに笑い出した。
「えーっと……」
「そうだった。俺、まだ君に自己紹介してなかったんだっけ」
こほんと咳払いをして改めた彼は、葵の目の前まで近づいて、にっこりと笑う。
「俺の名前は『あおい』って言います。……一緒だね?」
「……あおいさん、ですか?」
「そうだよ。実は俺の名前も、あおいっていうんだ」
名字か名前かはわからなかったが、何も言わないのは、もしかしたら何かわけがあるのかもしれないと、葵はただ静かに頷いた。先を促すように。
「下の名前があおいっていうんだけど、どうみょうじさんのあおいはどう書くの?」
言われてみれば知らないのも無理ないかと、葵は自分の名前の漢字を教える。すると彼は嬉しそうに笑って、自分の名前が『藍』と書くことを教えてくれた。
「そ、そうなんですね。あ、あおい、さん」
「なんだかとっても言いにくそうだね? もしかして、自分の名前嫌いだったりするの?」
「はい。とっても」



