「(あ。オウリくん、だんだん大きくなってる……)」


 はいはいしている写真や、机の脚に掴まり立ちしている写真。完全に立ち上がって、トテトテと歩いている様子などが写っていた。


「(でもここからはもう。お父様は写っていない……)」


 ある時を境に、父親の姿がなくなった。
 そして母親と写ってる写真も少なくなった。彼女が撮っていたからだろうが。


「(……そうか。もともと【あれ】はお母様のものなんだな)」


 ずっと感じていた違和感の答えを見つけると、肩をぽんと叩かれた。


「オウリくん!?」


 異常なほど震えていた体を慌てて抱き締めようとしたが、彼はそれを拒否するかのように肩を押す。よく見ると、彼の目には涙の跡もあったが、それも拭かせてはくれなかった。


「……おうり、くん……」


 彼はそっと葵の腕から逃れ、横にちょこんと座った。
 すると、オウリが葵に何かを渡してくる。


「……お手紙?」


 それは、シンプルな封筒に入れられた手紙だった。宛名はなかったが、涙の跡だけはしっかり残っていて。

 彼は震える手で、懸命に何かをスマホに打ち込む。



〈あーちゃん
 おれの中にある冷たいところ

 聞いて欲しいんだ〉


 カタカタと震える手で何とかその画面を見せながら、オウリは葵の手をそっと取って、自分の胸の上で重ねるように押さえる。

 葵は震える彼の体を……そっと包み込むように、今度こそ抱き締めた。


「もちろん。お安いご用だよっ」


 葵はゆっくりと、彼の心を覗いていった。