そのあとキサも車に乗り「あとでね~」と帰って行った。


「さてと。邪魔者がいなくなったところで、オレはお前に聞いておきたいことがあるんだが」

「え? 返事? ごめんなさ」

「ちょっと待ってくれる!? そんなにさらっと言われたら、オレのさっきのなんだったの?! ってなるから!!」

「ありゃ。それはごめん」


「どっちのごめんだよ……」と、しばらくの間チカゼは頭を抱えていたけれど。


「キサから、聞いたんだけど」

「何を?」

「お前、結婚するつもりねえの」


 沈黙を返す。けれどチカゼは、その回答を求めていた。


「だいぶ前から決めてたような、そんな感じだったっつってた。だから誰とも付き合わねえのか。誰に告白されても断るのかよ」


 チカゼに歩み寄られ、葵は少しずつ後退る。


「……そんなこと、ないよ」

「お前さ、あの時オレに聞いたよな。あの言葉、今そっくりそのまま返すわ」


 え? と思ったら後ろは行き止まりで、壁に追いやられた葵の横へ、チカゼが手を突いて逃げ場をなくした。


「お前は、『オレの考える』生徒会メンバーなのか」

「――――」


 それはお披露目式の時の話だ。
 何故生徒会メンバー同士で、ネクタイを取ろうとしないのか。


 きっと、彼が危惧しているのは、葵に相手がいるんじゃないかということ。
 そしてそれが、望んでいない結婚――政略結婚なんじゃないかと。そういうことだろう。


「それは違うよチカくん」

「だったらなん、んっ」


 葵はチカゼの口に人差し指を当てる。


「キサちゃんはなんて言ってた? 『結婚するつもりがない』って言ってたんでしょう? それをキサちゃんに話した覚えはないんだけど……まあいいや」


 葵は、カナデに言ったそれを、チカゼにも伝えた。

 自分には、それ以前に好きって気持ちがわからないこと。それを知らないと先には進めないこと。だから、君の気持ちには答えられないことを。