カエデはあのあと葵と別れ、そのまま皇へ帰っていった。チカゼの祖母の無事な姿が見られたこと、そしてチカゼに全てを話せたことで、去り際の彼の顔はスッキリして見えた。
「フジカ様。わたしもこの辺で失礼します」
病室に帰ってきてみんなの会話に少し参加したあと、葵は席を外そうと立ち上がる。
「あ! もしかしてあっちゃんそのまま学校に行こうとしてた?」
「え? うん。そのつもりだったけど……」
「あたしも着替え持ってくればよかったあー……」と、キサが頭を抱えている。
「あーめんど。今日学校休んじゃ駄目か」
「キク先生。免許没収しましょうか」
「行きます行きます」と急いで立ち上がったので、丸椅子が盛大な音を立てて転げた。
「ばばあ。いつ退院なんだ?」
「この点滴終わったら帰るわ。薬ももらったし、ええやろ」
「だったら一緒に帰ろ。オレはそれから学校行くわ」
「わかった。キク先生が担任の先生に伝えてくれると思うよ」
「だって! 菊ちゃんOK?」
「ほいほ~い」
キサはサツキとアカリの車に乗って一旦帰ってから学校に来るよう。キクも、一旦服を着替えてくるらしい。
「お前さん、ここから一人で学校行けるのか?」
「失礼ですね。流石に桜地区はわかります」
葵の言葉に、みんなが揃って心配そうな顔をした。
「ちょっと見送ってくるから」
そのみんなの不安を感じ取ってか、チカゼも下まで見送りに来てくれるよう。今はみんなで病院内を歩いていた。
「あ。そういえばアカリさん、ナツメさんたちにわたしが写真集めてるの言ってくれたんですね。おかげでいっぱいもらっちゃいました」
「そ、そう。それはよかったわ。どれくらいもらったの?」
「はい。全部いただきました」
「ぜ、ぜんぶ?!」
「アルバムごともらっちゃったんです~」
「そ、そう……」
ここまで来たら仕方がないと、全員が諦めた。
「それじゃあお前さんたち、あとでな~」
さっさとキクは車を出して出発。
「サツキさんアカリさん。またお邪魔しに行ってもいいですか?」
「もちろん」
「あっちゃんと、今度は柚子もこっちに呼んで、女子会しようって言ってるんだー」
「そうでした! もしよければ、いいですか?」
「もちろんいいわよ。みんなで男共をけちょんけちょんにする計画を立てましょうっ」
なんだかとっても楽しそうな女子会になりそうだ。男たちは震え上がっていたけれど。
「あ! ……あの、言っていいものかわからないんですけど。キサちゃんの生みのご両親、ご結婚なさったんです」
「ええっ?!」
「うっそ! あの二人結局くっついたの?!」
「まあなんだかんだで二人とも好き合ってたしねー」
「ちょ、直接言いたいって仰ってたんですけど、きっと喜んでくれるんじゃないかと思って。こういうのは、言えなくなっちゃいけないですからね! 早めの行動が吉です!」
「ふはっ。よかったな。今度また会いに行ってやれよ」
チカゼの言葉に、桜庭家のみんなは大きく頷いた。
その顔がとっても嬉しそうで、……本当によかった。



