「ざっと、こんな感じでしょうか」
葵はにっこりと笑うが、カエデの顔は険しかった。
「……その蕾が、お嬢ちゃんだって言いてえのか」
「それはどうでしょう。でもこれは、あなたにお礼のつもりで話したので」
「よっと!」と、葵は花壇から降りてカエデに向き合う。
「カエデさん。チカくんを、アキラくんを、シントを。そしてみんなを、今までずっと、支えてくれてありがとうございます」
ニコニコと、本当に葵は笑うだけ。
「これからもしっかり支えてあげてください。見ていてあげてください。そばに、いてあげてください。……たとえ、何があろうとも」
「お嬢ちゃん……」
「きっと、すぐだと思います。恐らくですが」
「……俺に、できることは」
「必ず、渡してください」
「他は」
「ただ、支えてあげてください。……きっと彼らは、根元から引っこ抜かれたようになるでしょうから」
「……結局は何もできないのか。俺は」
「そんなことはありません、カエデさん?」
葵は彼の手をそっと取り、きゅっと力を込める。
「カエデさんには、カエデさんにしかできないことがあるでしょう? それをすればいいんです。無理に何かをしようとしたら、あなたまで真っ黒に染まってしまいますから」
「……けど」
「カエデさん。わたし、すっごく今楽しみなんです。どうやら、わたしの未来を変えちゃってくれる人がいるみたいなんで」
葵は花壇のレンガに足を掛け、てくてくと歩き出す。
「わたしが真っ黒にならないように。蕾のまま、枯れてしまわないように。それを変えようとしてくれる人が、いるみたいなんです」
カエデは平坦な道を、葵の横に沿うように歩く。
「わたしは花を咲かせられるかもしれない。それも黒くない花を。それが楽しみで楽しみで仕方ないんです」
ぴょんっと飛び降りて、カエデを見上げた。
「カエデさんには、つらいお仕事を任せてしまうことになるかもしれません。それでも、あなたにしか頼めないんです」
「……わかった。もしその時が来たら、必ず渡そう。俺もお嬢ちゃんに……アオイちゃんに助けてもらったんだ。それくらいはさせてくれ」
そう言ってくれたカエデに、葵は深く頭を下げた。
「……よろしく。おねがいしますっ……」
そう、言葉を添えて。



