すべてはあの花のために④


「ざっと、こんな感じでしょうか」


 葵はにっこりと笑うが、カエデの顔は険しかった。


「……その蕾が、お嬢ちゃんだって言いてえのか」

「それはどうでしょう。でもこれは、あなたにお礼のつもりで話したので」


「よっと!」と、葵は花壇から降りてカエデに向き合う。


「カエデさん。チカくんを、アキラくんを、シントを。そしてみんなを、今までずっと、支えてくれてありがとうございます」


 ニコニコと、本当に葵は笑うだけ。


「これからもしっかり支えてあげてください。見ていてあげてください。そばに、いてあげてください。……たとえ、何があろうとも」

「お嬢ちゃん……」

「きっと、すぐだと思います。恐らくですが」

「……俺に、できることは」

「必ず、渡してください」

「他は」

「ただ、支えてあげてください。……きっと彼らは、根元から引っこ抜かれたようになるでしょうから」

「……結局は何もできないのか。俺は」

「そんなことはありません、カエデさん?」


 葵は彼の手をそっと取り、きゅっと力を込める。


「カエデさんには、カエデさんにしかできないことがあるでしょう? それをすればいいんです。無理に何かをしようとしたら、あなたまで真っ黒に染まってしまいますから」

「……けど」

「カエデさん。わたし、すっごく今楽しみなんです。どうやら、わたしの未来を変えちゃってくれる人がいるみたいなんで」


 葵は花壇のレンガに足を掛け、てくてくと歩き出す。


「わたしが真っ黒にならないように。蕾のまま、枯れてしまわないように。それを変えようとしてくれる人が、いるみたいなんです」


 カエデは平坦な道を、葵の横に沿うように歩く。


「わたしは花を咲かせられるかもしれない。それも黒くない花を。それが楽しみで楽しみで仕方ないんです」


 ぴょんっと飛び降りて、カエデを見上げた。


「カエデさんには、つらいお仕事を任せてしまうことになるかもしれません。それでも、あなたにしか頼めないんです」

「……わかった。もしその時が来たら、必ず渡そう。俺もお嬢ちゃんに……アオイちゃんに助けてもらったんだ。それくらいはさせてくれ」


 そう言ってくれたカエデに、葵は深く頭を下げた。


「……よろしく。おねがいしますっ……」


 そう、言葉を添えて。