その芽は、たくさんのものを吸収しました。
それはそれは、恐ろしいほどに。
だってまだ、芽が生えたばかりなんですから。
そんな芽を、生んだ咲きたての花たちは不気味に思いました。
ある晴れた日には、その芽をずっと外へ出してみます。
ある雨の日にも、ずっと雨に当ててみます。
ある雪が降る日だって、ずっと外へ出してみました。
そんなことをしても、その芽は全然変わりませんでした。
ただ、どんどん色が悪くなっていってしまうだけでした。
その咲きたての花たちは ある日その芽を水に浸しました。
そのまま芽を、その花はそこに置いて去って行きました。
芽は色を黒くしながら、ふたつの花を、ずっと待っていました。
それでも迎えに来ては、くれませんでした。
芽が真っ黒くなって枯れてしまいそうになっていたところへ、とってもあったかい土が、自分たちのところへと植え替えてくれました。
とってもあたたかかった。
本当に、やわらかくって、あたたかくて。
その芽は少しずつ大きくなりました。
それでも、色は黒い部分が残ったままです。
そんなある日、あたたかい土のところへ人間がやってきました。
その人間は、その芽が大層気に入りました。
その人間は、その芽と少しだけお話をしました。
芽は、自分と話してくれるなんて嬉しかったのです。
その人間が聞いてくることに、素直に答えました。
人間も、嬉しそうに頷きます。
それからしばらくして、人間がまた芽のところへやってきました。
来てくれて嬉しかった芽は、また人間が聞いてきたことへ素直に答えます。
そんなことを繰り返すうちに、芽は大きくなり、蕾になりました。
蕾になると、すっかり黒い部分はなくなっていました。
でも、それは違いました。
真夜中の、ある一時の時間にだけ。
蕾は真っ黒くなりました。
最初はそのことを知らなかった土は、それを知ってから蕾にたくさんの水を、栄養を、日の光をあげました。
蕾は、もうすっかり自分は黒くないと思っていたので、初めはわからないまま、土がくれるからと、たくさんもらいました。
でも、それを土に言われなくても、蕾は悟りました。
綺麗になったのになと思っていたので、蕾はとっても落ち込んでしまいました。
蕾はそれを人間に相談しました。
人間はこう言います。
その黒くなっているのも君の個性だと。
きっと黒くても綺麗だと。
しっかりたくさんのものを吸収して、ぼくのために咲かせてくれないかと、言ってくれました。
蕾は、こんな自分でも喜んでくれる人間がいてくれたことを、とっても嬉しく思いました。
それなら是非、あなたのために、花を咲かせたいですと、蕾は言いました。
人間は嬉しそうに微笑みました。
とてもやさしかった。
それから、たくさんのお水を、栄養を、日の光を土からもらい、大きくなった蕾は、ある日人間にもらわれていきました。
土はとっても寂しがってくれました。
でも、その代わりに人間が土に、新しい肥料をたくさんあげてました。
人間にもらわれた蕾はたくさんお話をしました。
いろんな話をしているときは、とても楽しかった。
でも、蕾は知りませんでした。
人間とお話しするごとに、いろんなお花が枯れていってしまっていることを。
それから蕾はどんどん大きくなって、もうすぐ花が開きそうです。
真夜中だけ黒くなっていたその花びらも、今ではお日様が出ている時にも時々黒くなりました。
やっぱり黒いのは嫌だと思ったけど、人間はこう言います。
黒い方が君は綺麗だよ。
だから安心して咲いておくれと。
蕾はいいました。
ええ。きっと必ずあなたが求める花を咲かせましょうと。
そうして花が開いた時、元の色はすっかりなくなり、真っ黒い花を咲かせるでしょう。
そして花が咲いた時、その花を育てた人間はたくさんの人たちの人気者になるでしょう。
めでたし。めでたし。



