すべてはあの花のために④


 その芽は、たくさんのものを吸収しました。
 それはそれは、恐ろしいほどに。
 だってまだ、芽が生えたばかりなんですから。


 そんな芽を、生んだ咲きたての花たちは不気味に思いました。

 ある晴れた日には、その芽をずっと外へ出してみます。
 ある雨の日にも、ずっと雨に当ててみます。
 ある雪が降る日だって、ずっと外へ出してみました。

 そんなことをしても、その芽は全然変わりませんでした。
 ただ、どんどん色が悪くなっていってしまうだけでした。


 その咲きたての花たちは ある日その芽を水に浸しました。
 そのまま芽を、その花はそこに置いて去って行きました。


 芽は色を黒くしながら、ふたつの花を、ずっと待っていました。
 それでも迎えに来ては、くれませんでした。


 芽が真っ黒くなって枯れてしまいそうになっていたところへ、とってもあったかい土が、自分たちのところへと植え替えてくれました。

 とってもあたたかかった。
 本当に、やわらかくって、あたたかくて。


 その芽は少しずつ大きくなりました。
 それでも、色は黒い部分が残ったままです。


 そんなある日、あたたかい土のところへ人間がやってきました。
 その人間は、その芽が大層気に入りました。
 その人間は、その芽と少しだけお話をしました。

 芽は、自分と話してくれるなんて嬉しかったのです。
 その人間が聞いてくることに、素直に答えました。
 人間も、嬉しそうに頷きます。


 それからしばらくして、人間がまた芽のところへやってきました。
 来てくれて嬉しかった芽は、また人間が聞いてきたことへ素直に答えます。


 そんなことを繰り返すうちに、芽は大きくなり、蕾になりました。
 蕾になると、すっかり黒い部分はなくなっていました。

 でも、それは違いました。



 真夜中の、ある一時の時間にだけ。
 蕾は真っ黒くなりました。

 最初はそのことを知らなかった土は、それを知ってから蕾にたくさんの水を、栄養を、日の光をあげました。

 蕾は、もうすっかり自分は黒くないと思っていたので、初めはわからないまま、土がくれるからと、たくさんもらいました。


 でも、それを土に言われなくても、蕾は悟りました。
 綺麗になったのになと思っていたので、蕾はとっても落ち込んでしまいました。

 蕾はそれを人間に相談しました。
 人間はこう言います。

 その黒くなっているのも君の個性だと。
 きっと黒くても綺麗だと。

 しっかりたくさんのものを吸収して、ぼくのために咲かせてくれないかと、言ってくれました。


 蕾は、こんな自分でも喜んでくれる人間がいてくれたことを、とっても嬉しく思いました。
 それなら是非、あなたのために、花を咲かせたいですと、蕾は言いました。

 人間は嬉しそうに微笑みました。
 とてもやさしかった。



 それから、たくさんのお水を、栄養を、日の光を土からもらい、大きくなった蕾は、ある日人間にもらわれていきました。

 土はとっても寂しがってくれました。
 でも、その代わりに人間が土に、新しい肥料をたくさんあげてました。


 人間にもらわれた蕾はたくさんお話をしました。
 いろんな話をしているときは、とても楽しかった。

 でも、蕾は知りませんでした。
 人間とお話しするごとに、いろんなお花が枯れていってしまっていることを。



 それから蕾はどんどん大きくなって、もうすぐ花が開きそうです。
 真夜中だけ黒くなっていたその花びらも、今ではお日様が出ている時にも時々黒くなりました。


 やっぱり黒いのは嫌だと思ったけど、人間はこう言います。

 黒い方が君は綺麗だよ。
 だから安心して咲いておくれと。

 蕾はいいました。
 ええ。きっと必ずあなたが求める花を咲かせましょうと。


 そうして花が開いた時、元の色はすっかりなくなり、真っ黒い花を咲かせるでしょう。
 そして花が咲いた時、その花を育てた人間はたくさんの人たちの人気者になるでしょう。


 めでたし。めでたし。