葵はにっこりと笑うだけ。
「昨日届いた。差出人は全く知らない名前だ」
「…………」
「一体どういうことだ。お嬢ちゃんは何を隠してる」
「隠してはいませんよ。カエデさんは、そのお手紙に書かれてあるとおりのことをしていただければそれで」
カエデは、すっと目を鋭くする。
「俺がそうしなかったらどうする」
「それならそれで仕方がありません。わたしがあなたを動かせなかった。それまでのことですから」
わけがわからないまま、カエデは頭を抱えた。
「どうしてこれを俺に渡した。直接渡すか、話してやればいいじゃねえか」
「……それが、できない恐れがあるので」
カナデは眉を顰めた。
「お嬢ちゃんがワケありなのと、関係があるんだな」
「……カエデさんは、蕾と花。どっちが好きですか?」
「は? いきなり何の話だよ」
「それじゃあ、綺麗だなとか、そばに置いておきたいと思うのは?」
「……どっちも一緒の花なんだろ? 俺は、開いた花をそばに置くよりは、蕾のそばにいてやりたいと思う」
まさかの回答に、葵は目を見開く。
「花は、あとはもう枯れちまうだけだ。蕾には育てる楽しみがあるし、開いた時嬉しい気持ちになる。それがとびっきり綺麗なら大喜びだろ」
「……もし、蕾が開かなかったら?」
「こじ開ける」
「こっ、……蕾のまま、枯れてしまったら?」
「そんなの、枯れる前に何とかするに決まってんだろ。水もやる。肥料もやろう。お天道様にだって当ててやる」
「……ぷっ。あははっ!」
葵は笑いが止まらなかった。
「……結局、お嬢ちゃんは何が言いたいんだ」
「ははっ。ほんと言うと、途中のこじ開ける発言で吹き出しそうなの我慢したんですけど……ははっ! カエデさん、男らし過ぎ!」
「褒められてんのか。バカにされてんのか」
カエデは存分に顔を顰めていた。
「すみません。……そう言ってもらえて、ちょっと嬉しくて」
「……ちょっとくらい話してくれたっていいんじゃないのか」
「俺はそんなに役立たずかよ」と、しょんぼりするカエデには、少しだけ話しておこう。



