すべてはあの花のために④


「どうして君に今のことを隠してたのかっていうと……」
 
「オレが、弱かったからだ」


 膝の上で拳をぎゅっと握り締めている彼の手を、包み込むように葵はそっと触れる。


「でも今は強くなった。きっとあの頃の君に言ったら、犯人を捕まえようと危険なことをしたかもしれない。もしかしたら、自分たちの目の届くところからいなくなってしまうかもしれない。君がまた、寂しい気持ちに押し潰されそうになって、暴走するかもしれない。そして、自分を責めてしまうかもしれない。……皆さんは、そう思ってた」

「アオイ……」

「そんなチカくんを、君のことが大好きな皆さんは見たくなかったんだ。でも、チカくんはもう大丈夫でしょう? 犯人を捕まえようなんて危ないことはしないし、みんなのそばにいるでしょう? もう寂しい時は人に話せるし、自分を押し殺したりなんかしない。……だから」


 ――自分が悪いなんて、そんなこと思うんじゃないっ!


「いいかチカくん。君のどこが悪かった? 悪いのは犯人でしょう? チカくんは被害者じゃないか。大好きだった人たちから引き離されて、大好きな人を失って! ……チカくんが悪いなんて、ひとつもないっ!」

「……ん。そう、だな」

「全部悪いのは犯人だチカくん。その人ももう捕まった。恨んだって何一つ解決しない。だから……復讐なんて、考えないで。そうしてつらくなるのは、チカくんのここだけだよ」


 そうして葵は、チカゼの胸に……心にそっと触れる。


「……大丈夫だアオイ。オレはちゃんと、わかってる」


 自分の胸に触れる葵の手をそっと握り締め、チカゼはにかっと笑った。


「そんなこと、もう考えねえよ。オレはこれから、オレのことを大事に育ててくれたばばあと、見ていてくれたここにいる人たちに、少しでも恩が返せるように生きていく。……もちろん、お前もな」


 チカゼがぽんと、葵の頭に手を乗せて笑う。
 それにつられて、葵も笑った。