すべてはあの花のために④


「(ぷしゅ~~……)」

「へ? お、おい!」


 完全にへたり込んでしまい、足にも上手く力が入らない。


「え。腰抜けたんお前」

「うっ、うるさい……!」

「ダメだって。今そんなこと言っても可愛いだけだよ」

「~~……ッ!」


 必死で言い返しても、返ってくるのはツンでもデレでもなく、甘々ばかりで。

 ……だ。誰か。誰か助けて。
 このままだと本気で、鼻血が出る。



「さて、どうすっかな。お前が立てねえとなると、病院は後回しか担いで行くしか」


 鼻息荒く、葵は踏ん張って立ち上がる。おかげで詰めたばかりの鼻栓がポンッと飛んで行ったけど。


「た、立てるもんっ!」

「へえ。もう一回してやろうか」


 チカゼの手が伸びてきそうになったので、葵は手を突っ張ってガード。


「だ、ダメ! わたし、こういうことはちゃんと好きな人とって決めてるの!」

「オレのこと好きになれよ」


 しかし、超本気モードの彼にはそんなもの何の抵抗にもならないようで、あっけなく手を取られる。


「こっ、こんなことしてる場合じゃないでしょう!?」

「……オレ、そんなにお前に嫌われてんの」

「へ? ち、チカくん?」


 しゃがみ込んでしまった彼の頭に、何故かしょんぼりしているネコさんのお耳が生えて見えた。


「……嫌いなわけないよ。でも今は、一刻も早くおばあさまの顔を見に行ってあげないと」

「……きらいじゃ、ない?」

「うん。わたしが、どうしてチカくんのこと嫌うと思ったの?」

「……思っては、ないけど」

「ないけど?」


 顔を覗き込むように屈んだら、彼の顔がゆっくりと上がってくる。


「まあ、意識せざるを得ないくらいの隙はできるかなと」

「うん? どういうこと?」


 その質問に、答えは返ってこなかった。
 ただ唇に、かさついた何かが、触れただけ。



「……取り敢えず、絶対オレに惚れさせてやるから、覚悟しとけってことで」


 彼は何事もなかったかのように立ち上がり、頭の後ろに手を組んで歩いて行く。けれど、それどころでなかった葵は、確かに触れ合った唇に、すっかり真っ赤になってへたり込んでしまったのだった。