すべてはあの花のために④


 掛けられたストールが、くんっと引っ張られる。隣に彼女の温度がぴったりとひっついてくる。おかげで、自分が小さく震えていることに気付いた。

 一体何時間いたんだと、小さく呆れていると、冷たくなった耳に熱い何かが触れる。驚いて顔を上げると、彼女はカイロを手に固まっていた。


「あ。びっくりし……た?」


 その拍子に、目から涙が零れる。


「ええ⁉︎ わ、わたし、何かした?! チカくん泣かせるとか、大罪じゃないかあ~……!」

「……?! な、泣いてっ。ないっ!」

「いや。流石に無理あるわ」

「――?!」


 ゴシゴシと何度も目元を拭うけれど、ぽろぽろと零れて止まらない。


「泣きたい時にはね、泣けばいいと思うんだ。つらい時にはつらいって、誰かに言えばいいと思うんだ」


 そんな自分を情けなく思っていると、隣の彼女がふっとやさしく笑う気配がする。


「逃げ出しちゃったことを“弱い”と言う人は確かにいるかもしれないけど、もうチカくんは“強い”でしょう? だって、キサちゃんに諦めずに、届くまでちゃんと話したんだから」


 その直後、彼女の指がそっと零れる涙を拭っていった。


「誰だって弱い部分がある。それとどうやって向き合っていくかが大切なの。ちゃんと向き合っていける人が、わたしは本当に強くて、やさしい人だと、そう思うよ?」


 やさしい彼女の指が離れていくのがいやで、そっとその手をきゅっと握る。


「……大丈夫だよアオイ。オレは、ちゃんとわかってるから」


 前と同じ台詞。彼女は気づくだろうか。
 笑えていることに、気づいてくれるだろうか。


「やっぱり現実だと動揺しちまうけど。……オレはもう、独りじゃないってわかってる。友達も仲間も幼馴染みも、みんなの両親も。オレのそばにいてくれてるって。……オレのこと、見ててくれてるって。ちゃんと、わかってるよ」


 目の前の彼女も、笑ってくれていた。
 やっぱり彼女は、気づいてくれた。


「だから、もうちょっと強くなりたい。だから、……オレの話、聞いてくれねえか」

「うん! わたしでよければ、チカくんのお手伝いを致しましょうっ」


 にかっと笑う彼女に、絶妙に空気を壊された感が否めないけれど。それでも、嬉しいことには変わらない。
 彼女に負けじと、笑顔を返す。



「オレ。……親がもういないんだ」


 海を見つめながら、ゆっくりと過去と、弱さと、向き合っていった。