掛けられたストールが、くんっと引っ張られる。隣に彼女の温度がぴったりとひっついてくる。おかげで、自分が小さく震えていることに気付いた。
一体何時間いたんだと、小さく呆れていると、冷たくなった耳に熱い何かが触れる。驚いて顔を上げると、彼女はカイロを手に固まっていた。
「あ。びっくりし……た?」
その拍子に、目から涙が零れる。
「ええ⁉︎ わ、わたし、何かした?! チカくん泣かせるとか、大罪じゃないかあ~……!」
「……?! な、泣いてっ。ないっ!」
「いや。流石に無理あるわ」
「――?!」
ゴシゴシと何度も目元を拭うけれど、ぽろぽろと零れて止まらない。
「泣きたい時にはね、泣けばいいと思うんだ。つらい時にはつらいって、誰かに言えばいいと思うんだ」
そんな自分を情けなく思っていると、隣の彼女がふっとやさしく笑う気配がする。
「逃げ出しちゃったことを“弱い”と言う人は確かにいるかもしれないけど、もうチカくんは“強い”でしょう? だって、キサちゃんに諦めずに、届くまでちゃんと話したんだから」
その直後、彼女の指がそっと零れる涙を拭っていった。
「誰だって弱い部分がある。それとどうやって向き合っていくかが大切なの。ちゃんと向き合っていける人が、わたしは本当に強くて、やさしい人だと、そう思うよ?」
やさしい彼女の指が離れていくのがいやで、そっとその手をきゅっと握る。
「……大丈夫だよアオイ。オレは、ちゃんとわかってるから」
前と同じ台詞。彼女は気づくだろうか。
笑えていることに、気づいてくれるだろうか。
「やっぱり現実だと動揺しちまうけど。……オレはもう、独りじゃないってわかってる。友達も仲間も幼馴染みも、みんなの両親も。オレのそばにいてくれてるって。……オレのこと、見ててくれてるって。ちゃんと、わかってるよ」
目の前の彼女も、笑ってくれていた。
やっぱり彼女は、気づいてくれた。
「だから、もうちょっと強くなりたい。だから、……オレの話、聞いてくれねえか」
「うん! わたしでよければ、チカくんのお手伝いを致しましょうっ」
にかっと笑う彼女に、絶妙に空気を壊された感が否めないけれど。それでも、嬉しいことには変わらない。
彼女に負けじと、笑顔を返す。
「オレ。……親がもういないんだ」
海を見つめながら、ゆっくりと過去と、弱さと、向き合っていった。



