すべてはあの花のために④


「葵……」


 ツバサは家の中に入りながら、今までの会話を思い出す。


「……信人さんは何かに焦ってる。しかもそれが、俺のこの恰好と関係してるみたいな……」


 二人の会話からして、きっと間違いではないだろう。


「家のことが片付いたら…………」


 自分の部屋に入ってリボンを外す。鏡に映る自分を見て、嘲笑を浮かべた。


「……はっ。俺がやめたって、あいつが解放されなきゃ意味ねえんだよ」


 髪を縛り、寝間着を持って風呂場へ。


「なんだ翼。帰ってきてたんなら声くらい掛けなさい」

「あ。……すみません。父さん」


 ラフな服装に身を包んだ、彫りの深いはっきりとした顔立ち。
 自分で言うのもなんだが、自分の父よりも顔がいい人は正直見たことがなかった。

 だから、そんな父から低く発せられた声には、誰も太刀打ちなんてできやしない。


「まだお前はそんな恰好をしているのか。いい加減にやめなさい。私の顔に泥を塗るつもりか」

「……すみません」

「謝るぐらいなら子どもにだってできる。お前も来年で高3だろう。もう立派な大人の仲間入りできる歳になるんだ。早くそんな雑念は切り落としなさい」


 父は、それだけ言って自分の部屋へと帰っていた。


「……っ。くっそ……」


 結局は何もできない自分の弱さに、反吐が出そうになる。


「俺は、大丈夫だ。大丈夫。まだ、耐えられる……だいじょうぶ!」


 パンッと自分の顔を叩いて、ツバサは風呂場へと向かったのだった。