「葵……」
ツバサは家の中に入りながら、今までの会話を思い出す。
「……信人さんは何かに焦ってる。しかもそれが、俺のこの恰好と関係してるみたいな……」
二人の会話からして、きっと間違いではないだろう。
「家のことが片付いたら…………」
自分の部屋に入ってリボンを外す。鏡に映る自分を見て、嘲笑を浮かべた。
「……はっ。俺がやめたって、あいつが解放されなきゃ意味ねえんだよ」
髪を縛り、寝間着を持って風呂場へ。
「なんだ翼。帰ってきてたんなら声くらい掛けなさい」
「あ。……すみません。父さん」
ラフな服装に身を包んだ、彫りの深いはっきりとした顔立ち。
自分で言うのもなんだが、自分の父よりも顔がいい人は正直見たことがなかった。
だから、そんな父から低く発せられた声には、誰も太刀打ちなんてできやしない。
「まだお前はそんな恰好をしているのか。いい加減にやめなさい。私の顔に泥を塗るつもりか」
「……すみません」
「謝るぐらいなら子どもにだってできる。お前も来年で高3だろう。もう立派な大人の仲間入りできる歳になるんだ。早くそんな雑念は切り落としなさい」
父は、それだけ言って自分の部屋へと帰っていた。
「……っ。くっそ……」
結局は何もできない自分の弱さに、反吐が出そうになる。
「俺は、大丈夫だ。大丈夫。まだ、耐えられる……だいじょうぶ!」
パンッと自分の顔を叩いて、ツバサは風呂場へと向かったのだった。



