すべてはあの花のために④


 きちんとバナナ以外の晩ご飯の食材を手に、葵たちはエレベーターを使って彼の自宅へ。ちなみに到着した時も驚いたが、ここは誰が見ても値段も高さもお高い超高級マンションである。

 まず、地下駐車場からマンション内へ入るのに、指紋と声紋、瞳の認証する箇所があり、エレベーターへ入ったらボタンを押さずにカードを翳す。持ち主しかその階には止まらないことになっているのだろう。カードはゴールド。自宅も最上階。しかも屋上ベランダ付きって。

 ヒエンから一切お金持ち臭がしないせいか、驚きの連続だった。


 あんぐりと葵が大口を開けている間に、エレベーターが開く。そこはもう玄関だった。


「……あ」


 勝手に、自分の部屋に籠もっているものだと思っていたが、彼は今まさに靴を履こうとしていたところで。


「? ……。――!?」


 一瞬状況が飲み込めなかったオウリは、ダッシュで靴も履き捨て部屋の中に戻ろうする。


「つっかまえたあ~」

「!?!?」


 まあ、そんなのも虚しい抵抗で。
 いつの間にかアキラにスーパーの袋を持たせ、自分の靴も脱いでいた葵が勢いよくオウリに飛びついたせいで、ザザザザーッとフローリングの床をスライディング。

 オウリにみんなが手を合わせて同情したのは、まあ仕方がないことだろう。


 そんな中葵は、ガシッと腕も足もしっかり使って、オウリにガッチリしがみついていた。
 対するオウリは、必死にもがいているのだが、柔道経験者の彼でも葵のホールドにはビクともしなかったようだ。

『あ、これ絶対勝てないやつだ……』と、オウリは素直に諦めて負けを認めた。


 そうしたら、葵の腕がそっとオウリの後頭部に伸びてきて、彼女の胸の中へそのまま誘われる。そんな葵の行動にオウリは体を硬直させてしまうが、やさしい手が自分の頭をやさしく撫でていることに気づいて。


「(……あー、ちゃん……?)」


 その手が少し震えていることに気付くと、「ごめんね」と小さな声がもれた。


「そばにっ。いなくて。……ごめんっ」

「――!」


 ゆっくりと葵が紡ぐ言葉に、オウリの視界はぼやけてくる。


「ひとりにっ。させちゃってた」

「……っ」


 葵の背中に、縋り付くようにオウリの手が伸びる。


「やっぱり。付いててあげたらよかったって。……っ。後悔、してた」

「……っ!」


 オウリはゆるく首を振り、葵の服を掴んで自分の方へと引き寄せる。


「姿が見られて。よかった。……安心。した」


 その言葉を聞いて、オウリも葵の胸元で涙を流していた。
 初めは抱き合っている二人に飛びかかろうとしたみんなも、そんな様子に小さく笑って見守っていた。