きちんとバナナ以外の晩ご飯の食材を手に、葵たちはエレベーターを使って彼の自宅へ。ちなみに到着した時も驚いたが、ここは誰が見ても値段も高さもお高い超高級マンションである。
まず、地下駐車場からマンション内へ入るのに、指紋と声紋、瞳の認証する箇所があり、エレベーターへ入ったらボタンを押さずにカードを翳す。持ち主しかその階には止まらないことになっているのだろう。カードはゴールド。自宅も最上階。しかも屋上ベランダ付きって。
ヒエンから一切お金持ち臭がしないせいか、驚きの連続だった。
あんぐりと葵が大口を開けている間に、エレベーターが開く。そこはもう玄関だった。
「……あ」
勝手に、自分の部屋に籠もっているものだと思っていたが、彼は今まさに靴を履こうとしていたところで。
「? ……。――!?」
一瞬状況が飲み込めなかったオウリは、ダッシュで靴も履き捨て部屋の中に戻ろうする。
「つっかまえたあ~」
「!?!?」
まあ、そんなのも虚しい抵抗で。
いつの間にかアキラにスーパーの袋を持たせ、自分の靴も脱いでいた葵が勢いよくオウリに飛びついたせいで、ザザザザーッとフローリングの床をスライディング。
オウリにみんなが手を合わせて同情したのは、まあ仕方がないことだろう。
そんな中葵は、ガシッと腕も足もしっかり使って、オウリにガッチリしがみついていた。
対するオウリは、必死にもがいているのだが、柔道経験者の彼でも葵のホールドにはビクともしなかったようだ。
『あ、これ絶対勝てないやつだ……』と、オウリは素直に諦めて負けを認めた。
そうしたら、葵の腕がそっとオウリの後頭部に伸びてきて、彼女の胸の中へそのまま誘われる。そんな葵の行動にオウリは体を硬直させてしまうが、やさしい手が自分の頭をやさしく撫でていることに気づいて。
「(……あー、ちゃん……?)」
その手が少し震えていることに気付くと、「ごめんね」と小さな声がもれた。
「そばにっ。いなくて。……ごめんっ」
「――!」
ゆっくりと葵が紡ぐ言葉に、オウリの視界はぼやけてくる。
「ひとりにっ。させちゃってた」
「……っ」
葵の背中に、縋り付くようにオウリの手が伸びる。
「やっぱり。付いててあげたらよかったって。……っ。後悔、してた」
「……っ!」
オウリはゆるく首を振り、葵の服を掴んで自分の方へと引き寄せる。
「姿が見られて。よかった。……安心。した」
その言葉を聞いて、オウリも葵の胸元で涙を流していた。
初めは抱き合っている二人に飛びかかろうとしたみんなも、そんな様子に小さく笑って見守っていた。



