すべてはあの花のために④


「さっきは悪かったわね」

「ううん。うちの執事の躾がなってなくてごめんね? よく扱いておきます」


 今度は助手席に回ってきたので、葵も車から降りて話をすることに。


「いやいや。十分いい人だからやめて」

「ツバサくんがいいなら……?」


 指を鳴らしていた葵の手は、そっとツバサに止められた。


「それはそうと、修行は何か掴めたの?」

「うん! 置いて来られたんだ!」

「え? 置いてきたの?」

「うん。……今のわたしには、これが一番だと思うから」


 一体何を置いてきたのか。尋ねられる前に、空を見上げる。


「ツバサくん。チカくん、大丈夫かな……」


 満天の星空だったはずなのに、そこには分厚い雲がかかり始めていた。


「……きっと今あの子は、病院にいるわ」

「病院に?」

「あの子は、孤独だから」


 ツバサが車に背を預けながら、葵の視線を追うように天を仰いだ。


「……アンタは知ってるわよね。一回チカが暴走したから」

「……うん」


 それは、マサキたちに襲われた時。
 初めは、怒りで溢れていると思った彼の瞳が、悲しさや寂しさへと染まっていたから。


「……ただね、寂しいだけのよ」


 悲しくて寂しくて。泣いていたんだ。



「ツバサくんは、チカくんが心配?」

「ええもちろん。心配よ」

「それは、彼が孤独だから? それとも、……暴走することが?」

「――!」


 葵が鋭くツバサを見つめる。
 その目に射貫かれたツバサは、一瞬動けなくなった。


「あ。ご、ごめん。別に睨むつもりはなかったんだ」

「え」


 と思ったら、急に申し訳なさそうに葵が表情を崩す。


「そりゃ心配に決まってるよね。何言ってるんだろうね、わたしってば……」


「ははは」と、頑張って笑ってみるけれど、やっぱり上手くは笑えなかった。