すべてはあの花のために④


 どうやら彼らも恥ずかしかったみたいで、葵とヒエンは声を出して笑う。


「もうあおいチャン! おじさんと来るならそう言ってよ!」

「いや~ごめんごめん。ちょっといろいろあってねー?」


 葵はアカネの赤毛に手を伸ばし、セットし直してあげる。
 一瞬どうしたのかと目を見張ったアカネは、気持ちよさそうに目を細めていた。


「よし、かんせーい! これでイケメンさんに元通りだっ」

「ありがとお、あおいチャンっ」


 アキラとカナデが自分の髪をぐしゃぐしゃにしていたけれど、葵はスルーを決め込んだ。


「いろいろって、何があったんだよ」

「え? ちょっとした親子喧嘩、かな?」


 ヒエンを見ると、彼も同意するように頷いていた。


「は? 親子喧嘩だあ?」

「アンタ、いつおじさんと親子になったのよ」

「も、もしかしてあっちゃん、もう桜李と……」


 キサの言いかけた言葉に、ヒナタ以外の五人が葵に飛びかかる。


「どういうことだ!?」

「え? 何が?」


 キサとヒエンが大笑いしている様子に首を傾げていると、ヒナタが「そういえばさっきパトカーの音が聞こえたんだよね」と呟いて、思わず――ぎくっと体を震わせる。

 そんな反応を、彼が見逃すはずもなく。


「へー。あんたとうとう警察のお世話になったわけ」

「ええ?! ち、違うぞ! け、決してそんなことは……ね! ヒエンさん!」

「いいや。あれは完全に通報される動きだった」


 みんなが一斉に葵から遠退く。


「(わあ~ん。味方がいないー……)」


 まあ完全に自業自得だけれど。



「えーこほん。わたしがちょっと警察さんのお世話になったのは置いといて」


 みんなは「え。マジでなったの?」と驚いていたが、葵の空気が変わったことで彼らも気を引き締めた。


「行きましょうヒエンさん。よろしくお願いします」

「ああ。……みんなも、よく来てくれた」


 歩き出す二人に、みんなも頷いて続く。
 しかし「あ!」と葵が何かを思い出したみたいで、来る時にスーパーで何かを買ったのか、ビニール袋をガサゴソと漁る。


「葵、持とう」


 少しでもポイントを稼ごうとするアキラが手を出すが、「大丈夫だよー」と葵はみんなの方を振り返り。


「今日の晩ご飯はバナナで~す」


 葵が取り出したのは、もちろん本物のバナナ。
 ヒエンは何故それを買うのを止めなかったのか。はたまた、本当に食べたかったのかは、謎に包まれたままとなる。

 そんな葵の頭に、みんなが一斉にハリセンを叩き込んだ音が駐車場に轟いたのだが、どこからそれを取り出したのかもわからないままだった。