どうやら彼らも恥ずかしかったみたいで、葵とヒエンは声を出して笑う。
「もうあおいチャン! おじさんと来るならそう言ってよ!」
「いや~ごめんごめん。ちょっといろいろあってねー?」
葵はアカネの赤毛に手を伸ばし、セットし直してあげる。
一瞬どうしたのかと目を見張ったアカネは、気持ちよさそうに目を細めていた。
「よし、かんせーい! これでイケメンさんに元通りだっ」
「ありがとお、あおいチャンっ」
アキラとカナデが自分の髪をぐしゃぐしゃにしていたけれど、葵はスルーを決め込んだ。
「いろいろって、何があったんだよ」
「え? ちょっとした親子喧嘩、かな?」
ヒエンを見ると、彼も同意するように頷いていた。
「は? 親子喧嘩だあ?」
「アンタ、いつおじさんと親子になったのよ」
「も、もしかしてあっちゃん、もう桜李と……」
キサの言いかけた言葉に、ヒナタ以外の五人が葵に飛びかかる。
「どういうことだ!?」
「え? 何が?」
キサとヒエンが大笑いしている様子に首を傾げていると、ヒナタが「そういえばさっきパトカーの音が聞こえたんだよね」と呟いて、思わず――ぎくっと体を震わせる。
そんな反応を、彼が見逃すはずもなく。
「へー。あんたとうとう警察のお世話になったわけ」
「ええ?! ち、違うぞ! け、決してそんなことは……ね! ヒエンさん!」
「いいや。あれは完全に通報される動きだった」
みんなが一斉に葵から遠退く。
「(わあ~ん。味方がいないー……)」
まあ完全に自業自得だけれど。
「えーこほん。わたしがちょっと警察さんのお世話になったのは置いといて」
みんなは「え。マジでなったの?」と驚いていたが、葵の空気が変わったことで彼らも気を引き締めた。
「行きましょうヒエンさん。よろしくお願いします」
「ああ。……みんなも、よく来てくれた」
歩き出す二人に、みんなも頷いて続く。
しかし「あ!」と葵が何かを思い出したみたいで、来る時にスーパーで何かを買ったのか、ビニール袋をガサゴソと漁る。
「葵、持とう」
少しでもポイントを稼ごうとするアキラが手を出すが、「大丈夫だよー」と葵はみんなの方を振り返り。
「今日の晩ご飯はバナナで~す」
葵が取り出したのは、もちろん本物のバナナ。
ヒエンは何故それを買うのを止めなかったのか。はたまた、本当に食べたかったのかは、謎に包まれたままとなる。
そんな葵の頭に、みんなが一斉にハリセンを叩き込んだ音が駐車場に轟いたのだが、どこからそれを取り出したのかもわからないままだった。



