トーマの手が、そっと葵の手を上から押さえるように握る。
「帰っちゃうんだよね」
「そう、ですね」
少し、押さえつける手に力が入る。
「……どうしよう。思った以上に寂しい」
「トーマさん……」
「ここにいてよ。帰らないで」
「それは……」
「行っちゃやだよ。会えるなんて、……っ。わからないじゃないか」
不安に震えるトーマの手に、自分のそれを重ねる。
「……会えます。必ずです」
「……あおい、ちゃん……」
「トーマさん。さようならじゃありません。わたしはもう、さようならなんて言いません」
「……それ、って……」
「だから、トーマさんも頑張って大学受かってください。発表、楽しみにしてますっ」
言い終わるが早いか、ぐっと腕を引かれた。
「受かる。必ず」
力強く、あたたかく葵を包み込んでくれる腕が、とても心地よい。
「……はい。トーマさんなら絶対受かります」
「まあね。俺だし」
トーマの腕の中で、二人は視線を交わす。
「結果。楽しみにしててよ。一番に報告するからさ」
「流石にご両親を一番にしてあげてくださいよ」
「えー」と避難する顔は、楽しそうに笑っていた。
「それじゃあ、家族の次。その一番に、葵ちゃんに言う」
「はいっ。それはとっても楽しみです」
葵の笑顔を間近で見たトーマは、再び自分の腕の中に葵を閉じ込めた。
「葵ちゃんも、頑張って。絶対にまだ、枯れたらダメだからね」
「もちろんですよ! まっかせてくださいっ」
そうして二人は笑い合う。
綺麗な花たちを。
少しずつ明かりが灯る町並みを。
沈んでいくオレンジ色の夕日を背に――……。



