すべてはあの花のために④


「あっち行ってみよー!」

「ちょ。おいキサ! 待てって!」

「はあ。めんどくさっ」


「あ! お嬢さーん。今日はどちらからいらしたんですか~?」


「翼、あれお前にそっくり」

「え? ……マンドリル。はあん!? アキ! どういうことよそれ!」


「お、おうり? 何してるの?」

「…………(※ウサギさんとにらめっこ)」



「(いやいやいや。お前ら隠れる気全然ねえのかよ……!)」


 思う存分満喫してやがった。
 心配して損したと思っていたら、不意に彼女が立ち止まっているのに気づく。

 視線を上げると、葵はあいつらの方を見ていた。


「あ、葵ちゃん。あいつらは……」

「ふふっ。さあトーマさん! 次はどこへ行きましょうか~」


「あ! ウサギさんもいるんですね! フクロウさんもいる~」と、はしゃいでいる彼女を見て、全てを納得した。きっと、ずっと前から気づいていたのだろうと。


「……話さなくていいの?」

「何言ってるんですか。わたしは今、トーマさんとお出かけに来てるんですから、めいっぱい楽しみましょうよ」


 折角だったら話させてやりたいって思ったけど、予想以上に力強く腕を引っ張られる。
 そうされてようやく気がついた。彼らにももちろん、自分にも気を遣ってくれていることに。


「(まったくもう。人の気持ちには敏感なくせに)」


 葵のことを、今までよりももっと、愛おしく感じた。


「トーマさん! ヘビ触れるらしいですよヘビ! 行きましょう!」

「はーい」


「トーマさんトーマさん! こっちはポニーちゃんと触れ合えるって!」

「ほーい」


「トーマさんトーマさんあっちには――」

「あ~~れ~~」


 結局葵に思う存分振り回されたトーマだったが、当初の目的を思い出し、首に掛けていた一眼レフを構える。