すべてはあの花のために④


 最初の目的地は海。海中観光船で、海の中を散歩するという。


「葵ちゃんは、海が嫌い?」

「えっ? どうしてそう思ったんですか?」


 海水浴は、普通に楽しんでたはずだけれど。


「アキに落とされちゃったから、あんまりいい思い出にはならなかったかなって」

「そんなこともありましたね。でも、別に見るのは嫌いじゃないですよ?」

「じゃあ泳ぐのは?」

「……泳いだことはないので、わからないです」

「だから落とされた時溺れたの」

「え。と、トーマさん?」


 電車の中、二人はぴたりとくっついて座っていた。先程までの楽しそうな雰囲気が一変、なんだかつらそうな表情のトーマ。


「溺れた時、全然抵抗してなかったよね。これが当たり前だって。受け入れてる感じだった」

「……そうですね。こんな風に枯れていくのかなって。遅かれ早かれ……って。思っていました」


「でも助けてもらってよかったって、今は本当にそう思ってますよ」と、微笑む葵が話を終えたので、「……そっか」と。トーマはそれ以上のことは聞いてこなかった。


「すっごい……! 綺麗ですね!」

「ここ最近いい天気だったから綺麗に見られるとは思ってたけど、まさかこんなに綺麗だとは思わなかった」


 それから早速船に乗り込み、エメラルドグリーンの澄んだ海の中を堪能した。船底の窓からは、綺麗な色をした熱帯魚など、いろんな魚や珊瑚も見ることができた。


「トーマさんも来られたのは初めてなんですか?」

「そうだね。俺彼女とかいなかったし」

「お友だちとかは?」

「遊びに誘われることはあるけれど、男だけでこんなところにいても悲しくなるだけじゃない?」


「第一俺を誘ったら、女が取られるからって。あんまりそういうのにも誘ってもらわないしね」とぼやくトーマの横顔を見上げながら尋ねてみる。「寂しいですか?」と。


「え? どうだろ。それが当たり前だったし」

「今は楽しいですか?」

「……うん。これ以上ないほど楽しい」


 照れ笑いを浮かべる彼に葵もにこっと笑い返す。


「わたしも今、トーマさんといられてとっても楽しいです。だから、お友だちもきっと楽しいはずですよっ」


 そう教えてあげると、「そっか。それはよかった」と、トーマも嬉しそうに笑ってくれた。