すべてはあの花のために④


 引き取ってからは、俺の伝で入園はさせた。伝って言っても、海棠が関係してるところだ。

 俺が引き取った時にはもう、あいつは喋りもしなかった。笑顔なんか、見せてもくれなかった。
 最初の方は病院で見てもらっていたが、こいつも精神的なもんだ。

 オウの場合は暴れるなんてことはなかったから、薬を飲ませて落ち着かせて、普通に生活できるようになってから通わせた。

 それでも、このままじゃいけねえと思った俺は、偶然二宮道場の前を通った。これしかねえと思って、オウを担いで無理矢理入れた。
 最初は嫌がってたな。顔には出てなくても、態度には出てたから。

 それでも同年代ぐらいの子がいたから、それなりに楽しくやってたみたいだ。


 小学校に上がったら、友達がたくさんできてたな。
 それでもなかなか笑うことはできなかったけど、その友達にいろいろ教えてもらったみたいでな。

 それからは、本当によく笑うようになった。
 お嬢ちゃんに会ってからも、あいつはすげえ嬉しそうだったぞ。

 なんか変な防犯ブザー? 渡されて、気持ち悪くて投げ捨てたっつってたけど……え。そんなに落ち込むんかい。いやいや、防犯ブザーが悪かったんじゃないから多分。


 ……見舞いには行ってた。俺はな。後はミノルの両親もか。
 オウは、行きたくても行けなかったんだ。お嬢ちゃんも見ただろう?

 母親の方が、どうしてかオウに執着してるんだ。それを見てオウの方も怯えてる。


 でも、それも変えなきゃいけないんだよな。
 いつまでも逃げてたら駄目だ。俺も、オウも、母親も。


 そう考えさせてくれたのは、お嬢ちゃんのおかげだ。改めて、礼を言うよ。





「と、まあこんな感じか?」


 葵は何も言わなかった。
 いいや、言えなかったのかもしれない。

 ただ話を聞いて、 ただずっと目を瞑っていた。


「どうした。話を聞くのが怖くなったか」


 犯罪者でなくても。騙されてたとしても。そんな奴の子と聞くだけで差別する奴は、この世に山ほどいる。


「……いいえ。ただ、今まで苦しかっただろうなって」


 葵は、それ以外は言わなかった。
 でも彼女の目は、何かを決心したような力強い瞳をしていた。