「……確かあの時も、こんな綺麗なお星様と、お月様が出てたっけ」
――それは、葵がオウリを助けたあの日。
葵は、誰かのためにその強さを使うことなど、今まで一度だってなかったのだ。
ただ、強くならなければいけなかったからだ。他でもない自分を、……守るために。
「……とても、強かった。そしてやさしかった。……っ、とても仲の良い、夫婦だったのに……っ」
かつて、葵をここまで強く育ててくれた師を思い出す。
葵は、彼らが大好きだった。
本当の子どものように、家族のように接してくれる彼らが、葵にとっては大好きで、大切な場所だった。
でも。そんな二人を、苦しめたのは全部……。
「わたしの。せいだっ」
だからもう、自分から壁を作るようにした。仮面を着けるようになった。
近付き過ぎてしまったら最後、また誰かを苦しめることになるから。
「……ごめん。ごめんっ。ごめんなさい……っ」
道明寺に引き取られて、みんなと会う前に一度だけ。たった一人にはその仮面を外したことがある。もう、……会うことはないけれど。
「あれ以来初めて、自分から外したんだっけ……」
オウリを助けた時のことを思い出す。可愛い彼が絡まれているのを、放ってはおけなかった。
「初めて、密かに編み出した技を使っけ」
小さく苦笑いを浮かべる。
「もう、外すことなんて……こんな気持ちになることなんて。絶対ないと。思ってたはずなのに」
葵の目から、つーっと透明な雫が流れ落ちる。
「初めて人を、……助けてあげることができた。こんなわたしでも。助け、られた……っ」
彼を助けたあとも、そのまま走って帰る気になれなくって、ちょっとだけ寄り道した。
そこも、ここと同じく高い場所で。町が、見渡せるところで。
――そして月に、手が届きそうな場所。
「太陽が大好きだった。でも、わたしのお日様はもう。……神様に。もらわれてしまったから」
葵は夜空へ手を伸ばす。
真っ直ぐ。ただ、月にだけ。
「お月様は、闇夜を照らす唯一の光。お日様を取られてしまったわたしの、唯一の光」
あなたに、聞いてもらおう。醜い心を。
ここに置いていこう。……全部。



