立ち上がったカツラは、 案内されてきたのは、綺麗な顔のお釈迦様が佇む本堂。
「大切なのは、物事にこだわらんことじゃ」
多くの参拝客がいる中、葵はカツラの横に並んでお釈迦様を見上げた。
「この世の全ては自分自身に繋がっておる。アオイさんがたとえお友だちのみんなと離れ、一人になろうとしても、繋がった縁は切れんもんじゃ。アオイさんが何に悩み、苦しんどるのかはわからんが、それも自分を成長させてくれるもんかもしれん」
沈黙しか返すことのできない葵に、カツラはやさしく微笑んだ。
「アオイさんが悩んでることは、自分にとってもみんなにとっても悪いことかの?」
「……わたしの、道明寺にとってはいいことだと思います。でもわたしは、……そうなってしまうことがとても嫌なんです」
「だったら尚更、それと向き合わんといかんな。今悩んでおることを乗り越えられるように、少しでもワシも手伝うからの」
カツラの言葉に涙ぐみそうになった葵は、それを堪えながら、隠すように深く頭を下げる。
「一つ、気をつけておいて欲しいんじゃ」
「……? はい。何でしょう」
「我慢も無理もせんことじゃ。溜めてしもうたそれは、ちゃんと吐き出さねばならん」
「……はい。心に留めておきます」
「『心』『気持ち』『感情』こういう目に見えんものは、相手ももちろん自分にもわからんことが多い。強くもあるが、同時に脆くもあることをどうか、忘れんで欲しい」
「と、いいますと?」
「たった一つの言葉で、行動で、小さなきっかけで、あっという間に崩れてしまうことがある。そして、一度壊れてしまうと戻りにくい。……人の心とは、そういうものなんじゃよ」
カツラの手が、俯く葵の頭にぽんと乗っかる。
「だからワシは今のままでも十分じゃと思うんじゃがのお。自分に正直で、あるがままの表情を出せておる方が、とっても素敵じゃぞい?」
「……ふふ。そうですか?」
「でももう、決めたんじゃの」
「わたしは、心を強くするために来たので。ちょっとやそっとじゃ壊れない心を、……作りたい。作ります。必ず」
「そうか」と、カツラは寂しそうに呟いた。
「これからどうするのかは、アオイさん自身じゃ。困ったら誰か人を頼りなさい。自分を支えてくれる誰かに。思い切り縋りつきなさい」
「はい! ありがとうございます!」
「それじゃあ、アオイさんのお部屋に案内するかの~」と、二人は本堂をあとにした。



