すべてはあの花のために④


 立ち上がったカツラは、 案内されてきたのは、綺麗な顔のお釈迦様が佇む本堂。


「大切なのは、物事にこだわらんことじゃ」


 多くの参拝客がいる中、葵はカツラの横に並んでお釈迦様を見上げた。


「この世の全ては自分自身に繋がっておる。アオイさんがたとえお友だちのみんなと離れ、一人になろうとしても、繋がった縁は切れんもんじゃ。アオイさんが何に悩み、苦しんどるのかはわからんが、それも自分を成長させてくれるもんかもしれん」


 沈黙しか返すことのできない葵に、カツラはやさしく微笑んだ。


「アオイさんが悩んでることは、自分にとってもみんなにとっても悪いことかの?」

「……わたしの、道明寺にとってはいいことだと思います。でもわたしは、……そうなってしまうことがとても嫌なんです」

「だったら尚更、それと向き合わんといかんな。今悩んでおることを乗り越えられるように、少しでもワシも手伝うからの」


 カツラの言葉に涙ぐみそうになった葵は、それを堪えながら、隠すように深く頭を下げる。


「一つ、気をつけておいて欲しいんじゃ」

「……? はい。何でしょう」

「我慢も無理もせんことじゃ。溜めてしもうたそれは、ちゃんと吐き出さねばならん」

「……はい。心に留めておきます」

「『心』『気持ち』『感情』こういう目に見えんものは、相手ももちろん自分にもわからんことが多い。強くもあるが、同時に脆くもあることをどうか、忘れんで欲しい」

「と、いいますと?」

「たった一つの言葉で、行動で、小さなきっかけで、あっという間に崩れてしまうことがある。そして、一度壊れてしまうと戻りにくい。……人の心とは、そういうものなんじゃよ」


 カツラの手が、俯く葵の頭にぽんと乗っかる。


「だからワシは今のままでも十分じゃと思うんじゃがのお。自分に正直で、あるがままの表情を出せておる方が、とっても素敵じゃぞい?」

「……ふふ。そうですか?」

「でももう、決めたんじゃの」

「わたしは、心を強くするために来たので。ちょっとやそっとじゃ壊れない心を、……作りたい。作ります。必ず」


「そうか」と、カツラは寂しそうに呟いた。


「これからどうするのかは、アオイさん自身じゃ。困ったら誰か人を頼りなさい。自分を支えてくれる誰かに。思い切り縋りつきなさい」

「はい! ありがとうございます!」


「それじゃあ、アオイさんのお部屋に案内するかの~」と、二人は本堂をあとにした。