「父さん母さん、明日一緒に出かける?」


 そして、朝食をみんなで囲んだところで。


「いや、別にいいならいいんだけど。俺は家も好きだし」


 息子からお誘いを受けた両親は、目を丸くさせていた。


「受験は……まあ俺だし、間違いなく大丈夫だろうけど」

「そうだね。俺の子だし」

「そうね。あたしの子だし」


 流石は親子と葵がひしひしと感じていると、「だからさ」とトーマは左耳に付いている【紫紺のピアス】に触れる。


「日頃のお礼に、二人と思う存分遊んであげるよ」

「まあまあまあ!」

「大きくなったなあ!」

「わたしもそれは思います」


 ぱくりと朝ご飯を食べながら冷静に頷くと、「もうちょっと褒めてよう」とかなんとか言ってきているが、葵は無視を決め込んでおいた。


「トーマさんが素直で大きな男の子に育ってよかったですね? お母さん? お父さん?」

「そうね。あたしの娘?」

「葵ちゃん、やっぱりトーマと結婚する気に?!」

「そうなの葵ちゃん!?」

「それはありませんすみません。そうなるってわかってるんだから、いちいち自分たちで傷口広げないでくださいよ」


 やっぱり小さくなる二人だったが、アヤメだけはなんだか嬉しそうだった。


「朝っぱらからすごいですね……」

「息子の俺も、恥ずかしいったらないよ」


 明日は家族でお出かけすることになったトーマは、大きなため息を落としていた。というのも、仕事へ出かけるナツメをお見送りに出ようかと思ったのだが、なんだかアヤメとラブラブしていたのだ。

 なので今は、空気を読んだトーマと一緒に食器を洗っていた。


「明日、楽しみですか?」

「え? まあわかっててスルーするのも楽しかったけどね」

「あなた、実の両親にまでそんなことを……」

「え? だって楽しいんだもん」


 項垂れた拍子に、彼のピアスが目に入る。葵の視線を感じて、「ああ、これ?」とトーマが先回りして教えてくれた。


「誕生祝い。それと、お守りみたいなものかな? 今年受験生だからってことで両親からね」

「もしかしなくともそれ、サファイアじゃ……?」

「何かは教えてもらってない。けど、言わないってことはそこそこ高価なんだろうね」


 そう言うということは、トーマもそれが何なのかをもうわかっているようだ。